5.俺はただ、風呂に入る時間がかち合うのが嫌なだけ

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 なみなみ入ったままだったため、ピシャッと跳ねたビールが胸元を濡らして、冷たさに思わず「ひゃっ」と悲鳴を上げたと同時、テーブル越しに倍相(ばいしょう)課長の手が伸びてきて、濡れた胸元にお手拭きが当てられてしまう。 (きゃー、課長! 胸に手が当たってますぅ~!)  パニックに拍車がかかった羽理(うり)だったけれど、当の倍相(ばいしょう)課長は全く意に介した様子がなくて。 (薄っぺらすぎて膨らみに気付かれてないんですかねっ?)  真っ赤な顔をしてオロオロする羽理の様を、仁子(じんこ)がニヤニヤしながら見つめてきて。  羽理はもう、何が何だか分からないままに「もう大丈夫ですっ」と言いながらジョッキの中身をゴクゴクと喉を鳴らして豪快に(あお)った。 「あっ、羽理っ。そんなに一気に飲んだら……」  仁子の声がしたときには後の祭り。  羽理のクラクラと回る視界の中で、カバンの中の携帯画面が明るく光って着信を知らせているのがふと見えた。  時刻はそろそろ二十二時半になろうかと言う頃。 「あれぇ? 裸男(はらかおろこ)が何の用ろぉー?」  カバンからスマートフォンを取り出して発信者の名前を確認してから、「はぁーい、もしもしぃー」と出たら、すぐ隣でその画面をのぞき込んでいた仁子が怪訝(けげん)そうな顔をした。  羽理、部長室の一件の後、『屋久蓑(やくみの)大葉(たいよう)』で登録していた電話帳を、大事を取って『裸男』に変えていたのだが、それが良かったのか悪かったのか。  仁子はその着信名を見たのだ。
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