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「なぁ荒木。一応聞いてみるんだが……。お前、風呂は自力で入れそうか?」
荒木羽理のアパートに着いてはみたものの、そのまま建物前で「じゃあな」と言う気になれず、彼女の腕を支えて一緒にエレベーターへ乗り込んだ大葉だ。
部屋の前まで来てモタモタと鍵を探す荒木に焦れながら問い掛けてみたら、酒で潤んだ熱っぽい瞳を向けられてドキッとしてしまう。
「ふぇ~? お風呂れしゅかぁ? 大丈夫れす。しゃわぁでササッとすませましゅのれ」
しゃわぁ、と言うのはシャワーのことだろうかとふと考えて。
本人はその気なんてないだろうが、余りに色っぽい視線に当てられそうで、思わず顔を逸らしつつも、
「立ちっぱなしで湯なんか浴びて、ふらついて転倒したらどうするんだ!」
などと、大葉はまたしても母親めいたことを言ってしまった。
かといって、温かいお湯を張って湯船に浸かったら、そのままブクブクと沈んでしまいかねないとも思ってしまう。
「あー、けどっ。風呂へ浸かるのもなしだ! 危なすぎる!」
「ふふっ。屋久蓑部長ってばホント心配性さんれしゅねー。良い奥しゃんになれしょうれしゅ♥」
腕の中でフラフラと揺れながら荒木がヘラリと微笑むのを見て、大葉は半ば無意識。(いや、妻になるのはお前だろ。俺は夫になりたい!)と思ってしまってから、「妻」「夫」と言う単語が妙に恥ずかしくなった。
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