6.気になって仕方がない

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 「ぶちょぉが鍵、閉めてくれりゅんれしゅか? (たしゅ)かります」と言って、玄関脇にぶら下がったキーボックスから「702」と書かれたタグの付いたディンプルキーを手渡してきた。 「明日(あしら)会社れ……」  返せということだろう。 「よろしくお願いしましゅ」  ヘラリと笑って敬礼する荒木(あらき)に、「分かったから早く行け」とガラス戸の方を指さしたら、「ひゃーい」と返事をして、ズリズリと壁を擦りながら奥の方へと歩いて行った。  その姿を見送りながら、大葉(たいよう)は手のひらの鍵を宝物でも手に入れたみたいにギュッと握りしめる。 (必要だったから仕方なく、だ)  自分に言い聞かせるみたいに頭の中で思いながら……明日どう言い訳をしてこの鍵をそのまま手元に残すかを考えている自分の存在はひとまず無視することにした。 ***  荒木(あらき)羽理(うり)を下ろして一人、自宅へ向けて車を走らせながら、大葉(たいよう)はふと思う。 (そういえばアイツ、会社に車置いて帰ったんだよな。明日はどうやって出社する気だろう)  子供じゃないんだから、公共の交通機関を利用するなりタクシーを使うなりするだろうと思いはするが、気付いてしまったら妙に気になって。 (迎えに行ってやろうか?って聞くのも変だよな)  そもそも付き合ってもいないのに一緒に出社したりしたらまずいだろう、と至極まともな思考が脳裏を()ぎる。
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