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まさかこんなに早く、荒木から託された着替えが役立つ日が来るとは思わなかった。
本人からの言いつけを守って袋の中身は確認していないが、ちゃんとこうなることを想定して酔っぱらっていないときに彼女自身が用意したものだからきっと大丈夫。
そう思うのに、何故か胸騒ぎがするのは何故だろう。
乾いてくるにしたがって、荒木の髪の毛から匂い立つ自分のモノとは明らかに違うフローラルなシャンプーの香りに照れ臭くなった大葉は、ポタリと頬へ水滴が落ちたことを気にした体で、荒木を拭き終えて湿っぽいままのタオルを使って、自分の頭をガシガシと適当に拭いた。
そのせいで余計に彼女の香りを意識してしまって、動かす手に変な力が入ってしまう。
それを鏡越しに見た荒木が、
「ああ、屋久蓑ぶちょ、しょんなに強く拭いたりゃ禿げちゃいましゅよぅ?」
――もぉ、困った人れしゅね、と言いながら椅子からヨロリと立ち上がると、大葉に向かって手を伸ばしてきて。
「ほりゃ、今度はわらしが部長を拭いれあげましゅ。しゃっしゃと座っれくらしゃい」
大葉のむき出しの背中をペシペシと叩いて急かした。
そんな荒木の覚束ない足取りに不安になったのか、キュウリがサッと足元から飛びのいて。
大葉はそれを見てドキッとする。
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