7.今夜は泊まって行け

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***  何でそんな服しか持ってきていないんだ!と屋久蓑(やくみの)大葉(たいよう)から責められた荒木(あらき)羽理(うり)は、(だって、ワープしたあと外に出ることを考えたら、まともな格好しておかなきゃって思うじゃないですかっ)と、かすみの掛かった頭のまま、割とまともな言い訳をしていた。 「(しょと)()るかりゃれすよっ」  なのに頭で思ったままをうまく言葉に出来ないのは、きっとアルコールのせいだ。そう分かっていても、どうすることも出来ないのだから意味がない。  羞恥心(しゅうちしん)とか恥じらいとか……乙女が持つべき色んなものがポォーンと思考力の彼方へ追いやられていることを頭の片隅で自覚しながらも、肝心な対外面がついてこないのだから性質(たち)が悪いではないか。 「はぁ!? 荒木(あらき)、ひょっとしてもう一度俺にお前の家まで送らせるつもりかっ!」  自分だけラフな格好に着替えて〝お(くつろ)ぎモード〟な屋久蓑(やくみの)部長に、羽理(うり)は何となくズルイと思ってしまって。 「自分らけジュルイれしゅ」  本来ならば、『タクシーとかで帰るのでお気遣いなく!』と返すところなのに、ショート寸前な思考回路では、思いの強い方が先に出てしまうらしい。 「じゅるい? ……ああ、ズルイってことか。……って何がだ!」 「らってこのままごろぉーんと転がれるような服が着たいれす!」  そう。家でいつも着ているような、ダラリとえり首あたりが伸びた(とろけた)ようなやつ。  もしくはダボダボTシャツにズボンなし!  屋久蓑(やくみの)部長が聞いたら、『俺は別にだらけた格好なんてしていないぞ⁉︎』と反論してきそうなことを思いつつ。
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