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「……何れもないれす」
ぼんやりした頭でも、この秘密を本人にバラすのは良くないと言うのだけは何となく分かる。
誰かに隠し事をするのはイケナイことをしている感じがして心地いいな?と思った羽理は、思わずムフッとニヤけて。
すぐさま屋久蓑部長から、「お前っ、口閉じ忘れた可愛いカエルみたいな変顔になってるぞ?」と苦笑されてしまった。
「ぶちょぉが物凄く感じ悪いのれ帰りましゅ。へーい、たくしぃしれ下しゃい」
「へーい、たくしぃ?」
羽理の言葉を繰り返してからすぐ、屋久蓑部長が「タクシーを呼べってことか?」と聞いてくるので「それれす!」と言ったら、「荒木。お前、金持って来てねぇだろうが。――こ、今夜は泊まって行け」と言われて。
「えぇぇ。何れれしゅか」
家に着いたら運転手さんに事情を話して少しアパート下で待っていてもらって財布を持って戻ればいい。いや、何なら屋久蓑部長が貸してくれたっていいじゃないの!と気が大きくなっている羽理は、図々しいことまで思ったのだけれど。
「泥酔しまくりのお前がタクシーを降りた後、七階の部屋まで無事にたどり着ける気がしねぇからだよ!」
と、至極ごもっともなことを言われてしまって、羽理はグッと言葉に詰まった。
「でも……」
「それに! お前、会社に車置いて帰ってるだろ。ここから出勤した方が便利だぞ?」
羽理の家から会社までは車で二十分コースだが、屋久蓑部長の家からなら最悪徒歩でも出社できる。
貞操に関する危機感が不在気味の羽理は、それが物凄く魅力的な提案に思えたのだけれど。
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