7.今夜は泊まって行け

20/20

2006人が本棚に入れています
本棚に追加
/456ページ
 どんなに足掻(あが)いてみても掴まれた腕が振りほどけないばかりか、もがけばもがくほど何故か荒木(あらき)がギューッとしがみ付いてくる力が強くなる始末。  オマケに気が付けば太ももまで絡みついてくるから。  大葉(たいよう)は息子に血が集中しないよう般若心経(はんにゃしんぎょう)を脳内再生する羽目になってしまった。 ***  結局ほぼ一睡もできないままに朝――。  明け方になってやっと。荒木(あらき)羽理(うり)が「あー! それは私のお稲荷(いなり)さんです!」という謎の寝言とともに寝返りを打ってくれるまで、大葉(たいよう)は念仏を唱え続けたのだ。  ガチガチに固まったまま身動きの取れなかった身体は、あちこちがギシギシと痛んで。  オマケに刺激され続けた息子もギンギンで疲労困憊(こんぱい)。  朝一でシャワーを浴びて、とりあえずしたのだけれど、寝不足だけは如何(いかん)ともし(がた)かった。  風呂上り、リビングの壁掛け時計を見ると、まだ起きる時間までは数時間あった。けれど、そのままベッドに戻っても眠れる気がしなくて。  ふとケージを見るとキュウリのつぶらな瞳と目が合って、『お父しゃん、どうかしまちたか?』と問い掛けられているような気持ちがした大葉(たいよう)は、「うりちゃん!」と彼女をケージから出して、まだ薄闇に沈んだ静かな町を可愛い〝彼女〟とふたりきりで散歩することにした。
/456ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2006人が本棚に入れています
本棚に追加