8.脳内ライバル

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 色々思いながら鼻歌まじり。  作業を進めていた大葉(たいよう)は、足元にお座りしてじっとこちらを見上げていたキュウリが、カチカチと爪音を立てて向きを変えたのを感じて。  ん?と思ったのと同時、 「……あ、あの……、屋久蓑(やくみの)部長、おはよう、ござい、ます」  恐る恐るといった調子で背後から羽理(うり)に声を掛けられた。 「ああ、おはよう」  言いながら振り返ったら、もじもじと所在なさげにTシャツのすそを懸命に下へ引っ張っている羽理の姿があって。 (さすがに一晩寝て酔いが()めたか)  恥じらいが復活しているところからそう判断した大葉(たいよう)だ。 「よく眠れたか?」  そのはずだと分かっていながらも、あえてそう問いかけたら「何となく頭がズキズキするし、胃もムカムカするので……寝不足かも知れません」とか。 「いや、それ、寝不足じゃなくて二日酔いだろ!」  思わずそう突っ込まずにはいられない。  そんな大葉(たいよう)に、羽理は「あ……」とつぶやいて。  てっきり「ごめんなさい」と続くのかと思いきや、 「そういえば……何で私、部長の家にんでしょう?」  なんて人聞きの悪いことを言ってくる。 「っていうか、それ、一番最初に聞くところだろ!」  当然と言うべきか。クソ真面目な大葉(たいよう)は、律儀にそう反論せずにはいられなかったのだが。  それだけでは飽き足らず、 「……倍相(ばいしょう)課長や仁子(じんこ)の家ならまだ分かるんですけど」  ポツン……と聞き捨てならないことを付け加えてくる羽理に、 「何でそこで倍相(ばいしょう)が出る!」  思わず、〝仁子〟の部分は華麗に無視(スルー)して勢い込んで問いかけたら、「だって私、昨夜は課長と仁子(じんこ)の三人で飲みましたもん」と、至極ごもっともな返事が返ってきた。
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