8.脳内ライバル

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「まさかその飲みの帰り、酔っ払ったお前をご丁寧にもが! わざわざ迎えに行ってやったのを、覚えてないとか言うつもりじゃあるまいな?」  どうやらその辺りがスパーンと抜けているらしい羽理(うり)に、料理の手を止めないままに問いかけたら「え?」とつぶやかれて。  しかも一度は羽理のアパートまで送り届けてやったと言うのに、大葉(たいよう)の言いつけを守らず入浴して。  こちらへ来た上、あーんなことやこーんなことをしまくったことを、よもやなかったことにしようなどと言うつもりだろうか? (有り得ねぇだろ!) 「携帯見てみろ!」  論より証拠だと、ノーマルの玉子焼きを焼き終えたところで、先程キュウリと一緒に羽理の部屋から取ってきてソファの上に置いた鞄を指さしたら、羽理がトトトッとそちらへ駆け寄った。  そのまま鞄の中からスマートフォンを取り出して操作し始めた羽理の様子を遠巻きに眺めていたら、「あ……、倍相(ばいしょう)課長」と羽理が想定外のことをつぶやくから。  大葉(たいよう)は、(ちょっと待て! お前、俺からの着信を確認してたんじゃなかったのか!)と思わずにはいられない。 「はぁ⁉︎」 (どう言うことだよ!)  思わずネギ入りの卵液が入ったボールと菜箸(さいばし)を手にしたまま、頓狂(とんきょう)な声を上げて羽理のそばへ駆け寄ってしまった大葉(たいよう)だ。  マナー違反なんてクソ喰らえ。  羽理の背中越しに彼女が手にしたスマートフォンの画面を覗き見れば、確かにそこには「倍相(ばいしょう)課長」の文字。 「お前、倍相(ばいしょう)と個人的に連絡先の交換なんかしてたのか!」  どこか責めるように問いかけたら、「え? だって直属の上司ですもん。全然おかしくないですよね?」とか。  それは確かに必要なのかもしれないな?と思ったら、モヤモヤしつつも大葉(たいよう)はそれ以上の追及が出来なかった。
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