8.脳内ライバル

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 だが、「あっ。課長から電話がかかってきました! 夜にもらってたメッセージ、ずっと未読のままだったからでしょうか。既読にした途端……」と言われては、平常心でいられるわけがない。 「さ、さっさとスマホの電源落としてしまえ!」  自分がわざわざ羽理(うり)のアパートから取って来たくせに、羽理が手にした端末が忌々(いまいま)しくてたまらない。  思わずそんなことを言ってしまった大葉(たいよう)に、羽理が「何でですかっ」と本気で分からないみたいに言うから……。 「お、俺と話してる最中だからに決まってるだろう!」  大葉(たいよう)は自分でも何言ってんだ?と思うような理由を述べずにはいられなかった。  そうこうしている間にも、羽理の手の中の端末はブルブルと震えながら着信を知らせてきて。  我慢出来なくなったのだろう。 「もう、わけ分からないこと言わないで下さい。私、出ますからね!?」  羽理はそう宣言して、大葉(たいよう)が抗議する間も与えず「もしもし」と電話に出てしまった。 「あぁぁぁ!」  その、男心を全く意に介さない羽理の(つれ)ない態度に、思わず悲痛な叫び声を上げてしまった大葉(たいよう)だ。  その声を拾ってしまったらしい電話の先で、倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)が『あれ? 荒木(あらき)さん、ひょっとして誰かと一緒?』と問うてきて。  羽理はちらりと大葉(たいよう)――と彼の足元にちょこんとお座りするキュウリ――を見遣ると、「か、可愛いワンコとその飼い主が、私のだけです!」と、さらりと主体をキュウリにしてしまう。 「なっ!」  そのことに抗議しようとした大葉(たいよう)の口を、羽理は電光石火の速さでムグッと押さえつけて封じると、「ところで倍相(ばいしょう)課長、こんなに朝早く何の御用(ごよう)ですか?」と話題を変えた。
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