8.脳内ライバル

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 羽理(うり)の愛らしい手のひらで口封じをされた大葉(たいよう)は、羽理の温もりと、鼻先を(かす)める彼女の甘い香りにやられて窒息(ノックアウト)寸前。  別に鼻は塞がれていないのでそこで息をすればいいものを、これ以上羽理の香りを嗅いだらどうにかなってしまいそうで、息を止めたままフリーズしていた。 『今朝は足がなくて会社へ行くのが大変でしょう?』 「あぁー、車、会社に置いて帰ってますもんね……」 『そうそう。でね、今朝は僕が呼んだタクシーで法忍(ほうにん)さんを拾いに行くことになってるんだけど……荒木(あらき)さんも、どうかな?って』  どうやら倍相(ばいしょう)課長は、昨夜自分が飲みに誘ったことで、仁子(じんこ)や羽理の足を奪ってしまったことを気にしてくれているらしい。  もちろん岳斗(がくと)自身も同様だったから、昨夜仁子を送って行った際、明朝もタクシーに乗り合いで出社しようと言う話になったらしい。  昨夜から羽理にそれを打診していたと言う岳斗に、「でも、うちは倍相(ばいしょう)課長や仁子の家とは会社挟んで逆方向ですよ?」と至極まともな返しをした羽理だ。  それを聞きながら、大葉(たいよう)は(よく言ったぞ! 荒木(あらき)羽理(うり)!)と思わずにはいられない。  そもそも――。 (ガキじゃあるまいに、()っといても自分で行けるっつーの! 過保護が過ぎるとウザがられるぞ、倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)!)  自分のしていることを棚上げして、大葉(たいよう)はそう悪態をつきながら心の中でベーッと舌を突き出した。  それでも諦めようとしない倍相(ばいしょう)に、大葉(たいよう)は、自分の口を押さえたままの羽理の手をサッと外すと、思いっきりブンブンと首を横へ振って見せた。  それを見た羽理が、キョトンとして小首を傾げるから。
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