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羽理の愛らしい手のひらで口封じをされた大葉は、羽理の温もりと、鼻先を霞める彼女の甘い香りにやられて窒息寸前。
別に鼻は塞がれていないのでそこで息をすればいいものを、これ以上羽理の香りを嗅いだらどうにかなってしまいそうで、息を止めたままフリーズしていた。
『今朝は足がなくて会社へ行くのが大変でしょう?』
「あぁー、車、会社に置いて帰ってますもんね……」
『そうそう。でね、今朝は僕が呼んだタクシーで法忍さんを拾いに行くことになってるんだけど……荒木さんもついでに、どうかな?って』
どうやら倍相課長は、昨夜自分が飲みに誘ったことで、仁子や羽理の足を奪ってしまったことを気にしてくれているらしい。
もちろん岳斗自身も同様だったから、昨夜仁子を送って行った際、明朝もタクシーに乗り合いで出社しようと言う話になったらしい。
昨夜から羽理にそれを打診していたと言う岳斗に、「でも、うちは倍相課長や仁子の家とは会社挟んで逆方向ですよ?」と至極まともな返しをした羽理だ。
それを聞きながら、大葉は(よく言ったぞ! 荒木羽理!)と思わずにはいられない。
そもそも――。
(ガキじゃあるまいに、放っといても自分で行けるっつーの! 過保護が過ぎるとウザがられるぞ、倍相岳斗!)
自分のしていることを棚上げして、大葉はそう悪態をつきながら心の中でベーッと舌を突き出した。
それでも諦めようとしない倍相に、大葉は、自分の口を押さえたままの羽理の手をサッと外すと、思いっきりブンブンと首を横へ振って見せた。
それを見た羽理が、キョトンとして小首を傾げるから。
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