9.ワンコパニック

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「どうせなら一回使いきりのじゃなくて、もう少し沢山入ったやつにしとけ」  一日分しか入っていないパウチパック入りのスキンケアセットを手に取った羽理(うり)へ、下心満載でそう言ったら「大きいのを買うならいつも使ってるお気に入りのがいいですよぅ。コンビニのは割高ですし」と言われて、それもそうだなと思って。  歴代の彼女たちのことを思い出して、「いつもはデパートの化粧品売り場で買ってるのか?」と聞いたら「まさかっ。ドラッグストアで買えるプチプラのやつですよっ」と首をブンブン振られてしまう。  今までデパートのブランドコスメ品にしか興味がないような女性とばかり付き合ってきた大葉(たいよう)には、その答えがとても新鮮に思えて。  (荒木(あらき)ぃ~、お前ってやつは、なんて可愛いんだ!)と、羽理を大好きな気持ちに拍車がかかってしまう。  そのせいだろうか。 「そうか。ドラッグストアなら仕事後にも行けるな。今日、仕事が終わったら一緒に買いに行くか」  無意識のうちにそう誘い掛けていた。 *** 「えっ?」  突然の大葉(たいよう)の申し出に、羽理(うり)は(この(ひと)はいきなり何を言い出すんでしょうね!?)と思わずにはいられない。  だって――。 「家にスキンケアグッズ完備とか。……そんなの、まるでカレ・カノの所業じゃないですかっ」  思わず言ったら、大葉(たいよう)が一瞬瞳を見開いてから、何故かそわそわと瞳を揺らせて。 「ま、また今回みたいにうちへ飛ばされてきたら困るだろうがっ!」  と、怒ったみたいに言う。  羽理は「そんなに何度も飛ばされますかね!?」と聞いてみたのだけれど。 「(そな)えあれば(うれ)いなし」  ポツンとそう落されただけで、それ以上は返事をもらえなかった。 ***  無事メイクを完了した羽理(うり)に、大葉(たいよう)は彼女のために作った弁当とデザートをモスグリーンの若松菱(わかまつびし)模様の小風呂敷(こぶろしき)で包むと、「ほら、弁当」とぶっきら棒に手渡した。  若い女子社員が持つには渋過ぎの風呂敷だが、手元に包めそうなのがそれしかなかったのだから仕方がない。
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