9.ワンコパニック

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「あ、あの……それって、つまり」 「ああ。前と同じことが逆パターンで起こったってことだ」 「嘘……」 「嘘じゃねぇよ。だから化粧品とかスキンケアグッズとか……普通サイズのを置いといたほうがいいんじゃねぇか?っ()ったんだよ」  今朝羽理(うり)がどうにかこうにかメイク出来たのは、ひとえに大葉(たいよう)が羽理の家まで鞄を取りに行ったからに他ならない。  毎度毎度そんなことが出来る時間的ゆとりがあるとは限らないのだ。 「まぁ、あれだ。緊急事態とは言え……勝手にお前ん()入って悪かったな」  ついでにポツンと吐き捨てるように言ったら、「それは助かったのでいいんですけど……」と案外すんなり許してくれて胸を撫で下ろした大葉(たいよう)だ。  ついでに合鍵のことにも気付かれなくてホッとする。 「まぁさ、よくは分からねぇけど……同じタイミングで風呂入ったら駄目なんじゃねぇか?」  あと――。 「恐らく先に風呂から出ようとした方が相手の家に飛ばされるシステムじゃねぇかと思うんだ」  自分が飛ばされた時を思い出してみるに、風呂から上がろうとして扉を開けたら、何故か羽理の家の風呂場の扉を開いていた。  そうして、昨夜は自分が開ける前に風呂場の扉が開いて……裸の羽理が目の前にいた――。  だから、多分そうなんじゃないかと思う。 「確信はねぇがな」 「そんな……」  大葉(たいよう)の言葉に、少なからずショックを受けているらしい羽理を慰めようとしたら「それって……屋久蓑(やくみの)部長、また私の裸見たってことですよね!?」と詰め寄られてしまう。 「み、見たけどっ、不可抗力だっ!」  咄嗟(とっさ)のことに見ていないと言えなくて、慌てて言い訳をした大葉(たいよう)に、「私は今回部長の裸を見たの、ちっとも覚えてないのに! 何かズルイです!」とか。  羽理が、そこじゃないだろ!?と言う不満を口にしてくる。 (いやいやいや! そもそもお前、裸を見るどころか、握ったからな!?)  などと、羽理の胸を直にムニッ!と掴んだことを棚上げして思ってみたり。  大葉(たいよう)はプンスカする羽理をなだめつつも、「とりあえず」と前置きをして。 「週末にもう一度実験をしてみよう」  そう誘い掛けた。
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