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「お前が望まないなら避妊もちゃんとする」
てっきり口付けされると思っていたのに、すぐ間近。
今にも唇が触れ合いそうな至近距離でそんな言葉が降って来て、羽理は恐る恐る大葉を見上げた。
羽理の視線を受けた大葉が、羽理の鼻先へチュッと掠めるようなキスをしてから、おもむろに小さなプラスティック容器をズボンの尻ポケットから取り出して見せてくれる。
羽理は大葉の手元を見て小首をかしげると、「それ、なぁに?」と問いかけた。
大葉は羽理の言葉に一瞬だけ動きを止めて。
「え? ああ……。見るの、初めてだったか。コンドーム……なんだけど」
と何だか落ち着かない様子で説明してくれた。
「へ?」
羽理だってコンドームくらい見たことはあるし、何なら興味本位で触れたことだってある。
(じ、仁子の家にあったもん! 見せて?ってお願いしたら、仕方ないなぁって笑いながら手のひらに乗っけてくれたよ!?)
でも――。
羽理が知っている避妊具は、こんな形状じゃなくて四角い小さなパッケージに包まれていた。
いま大葉が見せてくれているのは、まるで使い捨てのコンタクトレンズが入れられているような容器だったから。
「コンタクト……じゃない、の?」
思ったままを口にしたら、大葉が合点がいったような顔をした。
「ああ。これはブリスターパック入りだから」
暗闇でも開閉が楽々なのと、表裏の判別がしやすいこと。あとは持ち運び時に中身が破損しにくいのが特徴のパッケージらしい。
特に最後のが決め手で、ブリスターパック入りを選んだのだと大葉が言って。
「破れたりしてたら意味ねぇだろ?」
言われてみればその通りだ。
でも――。
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