患者くんの初恋

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俺は、今世紀最大に鼓動が早まっていた。 病院だから緊張しているからではない。……少しはあるが。 この16年の間に、誰かを好きになったことはあった。が、告白しても想いは実らなかった。 何度も悲しくも、心が痛い思いをしたが、変な根性はあるらしく、水深200mの深海に到達した程の落ち込むがあっても、すぐに這い上がってこれた。 そう、それは、また俺に春が訪れたからだ。 きっかけは、初めて体温を測りに訪れた時だ。 だらだらと携帯端末を弄っていると、ふんわりと優しい声が降ってきた。 その声につられたのもあり、ふっと顔を上げると、言葉を失った。 すらりと背が高いらしい出で立ちに、垂れ目である目がよりその人を優しい印象を持たせている。 俺の目では、背景に色とりどりの花を背負っているように見え、石像のように固まってしまった俺を、今度はわたわたさせているその人を見つめて、こう思った。 そうだ、これを初恋にしよう。 今までの好みであった異性よりも超えた、愛らしい人にその日から、来る度に話しかけた。 少々話すのが苦手らしく、こちらが質問を投げかけると、少し困ったような笑みを浮かべながらも、答えてくれた。 可愛い。一つ一つの仕草がとんでもなく可愛い。 「お、鬼丸さんっ! 下の名前はなんですか!?」 珍しい名字であったものだから、すぐに覚えた看護師の鬼丸さんが、仕事が忙しいのだろう、そそくさと行こうとするのを半ば強引に引き止めた。 「名前……?」といつものように苦笑しながらも、丁寧にこちらに顔を向けて答えてくれた。 「みき。美しいに画数が多い方の樹って書いて、美樹って書くんだよ」 「美樹……っ!」 なんと可愛らしい名前なんだ。名は体を表すとはよく言ったものだ。 名字は見た目らしくないと失礼なことを思ってしまったが、俺の名字になれば、きっと……!!
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