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その日から俺は、その約束した日を指折り数えては、そわそわして待ちわびていた。
美樹さんも来る度に、「兄と一緒に見た以来だから、いつぶりだろう。楽しみだな」とか、「花火の日は、晴れるといいね」と言葉の端々に楽しみにしてそうな様子が感じ取れた。
思いきって誘ってみて、良かった。
俺は心底そう思いながら、花火の日を迎えた。
「──お待たせ」
窓際のベッドの縁に座り、まだかまだかと思っていた時、静かな夜に融けてしまいそうな小さな声が降り掛かった。
俺以外いなくなったのだから、そんな気遣う声を出さなくていいのに。
「隣、いい?」と聞いた時には、「どうぞどうぞ!」と嬉しそうな声を上げてしまったが。
ゆっくりと縁に座ったのもあるからか、跳ね返りもせず、やや沈んだのを感じたくらいで、改めて軽いんだなと思った。
「田嶋君、どうしたの? 花火、始まっているよ?」
「え? あっ」
そのまま見つめてしまっていたらしい、こちらに小首を傾げて不思議そうに見つめ返した美樹さんにそう言われて、反射的に窓の方へ向けた。
「あ〜〜、やっぱり、小さいスっね。もうちょっと大きいのが見たかったな·····」
「僕は、これでいいと思うよ。これはこれで思い出になるのだから」
「おもい、で·····」
言葉を飲み込んだ。
「·····俺、誰かを好きになっては告ったりするんだけど、何故か全然ダメでさ。だから、こうやって誰かと一緒に花火を見るなんてなかったんだ」
「·····うん」
「だからさっ! 本当に本当に美樹さんと見られて、マジで嬉しいんだ! たとえ、美樹さんが男でも、女の子と見ているようだったし」
あんま、こう言われるの好きじゃないよなと、勢いで美樹さんのことを見たことも相まって、誤魔化すように目を逸らした。
「·····田嶋君が嬉しいのなら、そう思われても構わないよ」
別に気にしてない、というような口調に聞こえ、そろりと目を向けると、美樹さんは静かに笑った。
室内は暗くなっていた。それなのに、はっきりとその表情が見え、吸い込まれるように見入っていた。
「見つめられると·····恥ずかしいな」と頬を染めて言う美樹さんに言われて、慌てて窓の方を向いて、終わりかけの花火を見続けるのであった。
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