患者くんの初恋

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隣から気配が感じない。 美樹は、暗くなった空に向けていた目を隣に向けると、ついさっきまでいた人がいないことに改めて気づかされる。 「·····いなくなっちゃったか」 特に慌てる様子もなく、その方向を見つめながら小さく息を吐いた。 そうして少しした後、こちらに向かう靴音が聞こえ、それが段々と近づいてきたことにより、美樹は顔を上げた。 「·····見届けたのか」 自分の可愛らしい顔立ちとは裏腹の、凛とした表情を向ける兄の大樹に、小さく頷く。 大樹は、今さっきいた人のところに座った。 「今回も大にぃのおかげで、田嶋君は生きている人じゃないって分かったよ。ありがとう」 「それは何より。やっぱり俺がいないと、美樹は分からないようだ」 「そうなんだけど·····、兄弟揃って同じ所で働くのおかしくない? しかも、同じ診療科だし·····」 「俺はとっても嬉しい。可愛い美樹とずっと一緒にいられるのだから。生者であろうが、死者であろうが、近づけさせない」 「全く、もう·····」 感情を動かさないまま、力強く拳を握りしめるのを、美樹はため息混じりに言った。 美樹の特異体質は、この職に就いてからだ。 生死が身近であるからであろう、だが、問題なのは、たまに生死が曖昧になってしまうことだった。 いつ亡くなったのか不明な人が不意に現れるため、驚くよりも普通に接してしまう。 兄は非科学的なものを一切信じないが、弟が言っていることだから信じているらしい、そのせいなのか、美樹が接した相手と接することが出来る。 兄には極力相手にするなと言われるが、放っておけない性分なもので、相手をしてしまう。 「たくさんの人を見届けたけど、やっぱり慣れないな」 「だから言っているだろう。もう相手にするな」 それに火がついたようだ。たらたらと文句が垂れ始めた大樹に鬱陶しく感じた美樹は、「ね! 休みの日が被ったら、花火見に行こう!」と遮った。 「田嶋君と見ていたら、大にぃと一緒に行きたくなっちゃった!」 「花火か·····分かった。休みにしておくよう、言っておく」 「たまたま休みが被った時でいいって!」 どこかに行こうとする大樹の後を、美慌てて樹は追いかける。 その彼らの姿を、ある男子高校生が楽しそうな中に、悔しそうな悲しそうな眼差しで見つめているのであった。
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