熊さん鑑賞は、恋か否か

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そりゃ、首を傾げるよ。 なんだコイツってなるよ。 「…絶対、キモいって思われたぁ…」 閉鎖的な窓もない、ロッカーとテーブルだけの休憩室。 半泣きの凛は机に突っ伏して唸っていた。 その手にはマドレーヌが握りしめられている。 相変わらずの能面っぷりだったけれど、きっと熊さんの心の顔はキョトンだった。 こいつ、キョドったうえに何赤くなってんだ、キショ…。の顔なはずだ。 「はーい、凛さん恋煩いですねー?」 ぱかーんとドアを開けて、そろそろ新人から卒業(1つ年上)の中野くんが現れた。 「……」 「まじで吹き出しそうでしたよ、俺。凛さんわかりやすっ」 「うるさいっ、…絶対変だと思われた…」 「あー、でしょうねぇ…まぁいいんじゃないですか?可愛らしくて」 どうでもいい顔をして、隣のビルの地下で購入して来たであろうフライドチキンにかぶりつく男。 因みに妻ありのリア充だ。 「…はぁー、明日どうしよう」 「てか、凛さんあんな感じが好みなんですねぇ」 違うわ。 TVのキラキラのイケメンにときめいてたわ、つい最近まで。 …熊さんだから、いいのだ。 「まぁ、男から見たらアリですけどね」 「…え?」 中野はどちらかと言えば、柔和なイケメンだ。 身だしなみも、そこそこ嫌味の無いレベルで気をつけて居るのがわかるし、愛想も悪くない。 「確かに喋らないし、威圧感あるし…でも配送の他のメーカーより随分仕事のできるタイプでしょ?あの人」 フライドチキンの2本目に手を伸ばしながら、中野が目を細める。 「こっちの客の切れ目、ちゃんと見て声かけるし…搬入もスムーズで静かに動線は塞がない」 確かに、早く検品しろよとグイグイ来る事はしないし、下を向いて仕事をしていれば、彼が来たのに気付かない事があるくらい音をたてない。 「あれは、こっち側も経験してんじゃないかなぁ…多分…」 そうかも。 「よく見てますよね、周りも。表情皆無なのはアレだけど…頑張れ凛さん」 「…無理だわ、さっきキモイ奴認定されたよきっとっ」 ははは、と中野が楽しそうに笑う脛を蹴ってやった。
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