熊さんの餌付け

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熊さんの餌付け

「…おはようございます」 「おはようございます」 今日も大きな台車から2往復してオリコンを13ケース下ろした所で、多田はボソリと挨拶をした。 検品よろしくの合図だ。 凛は分厚い伝票を、凛の2倍はありそうな手から受け取りオリコンの蓋を開けていく。 始まった検品。 その間ににも、レジから新人が叫ぶ。 「川野さーん、このテープ〇〇から取ったらいいですかー?」 「あ、それ▽▽に注文してー!」 文具メーカーは数社ある、しかし同じものを取れても仕入れ値が違うのだ。 新人の頃間違えて、お前はもうそのメーカーのカタログを開くなと叱られた苦い思い出があるのだ。 「…すみません、えっと次は…」 また、数個進んだところで、1階のスタッフが店の中央の螺旋階段から叫んだ。 「凛さん、ビジネスバック下に下ろしますかー?」 「えー?上で見本包んで陳列してっ、手書きのPOPは私書くからー!」 あれ、どこまで済んだっけ…。 熊さんはじっとオリコンの中身を見つめて待機している。 申し訳ない。 ここが済まないと次の配達に行けないのだ。 「ごめんなさい、次はえっと」 「…いえ、ラベルシールまで…済みました」 「…あ、ありがとうございます」 凄い、今日は結構言葉が続いた…。 「店員さん、この糊どこですか?」 「あ、いらっしゃいませ…そちら12番の棚上から2段目の中央あたりにございます」 …。 今日は全然進まない、ほんとに申し訳ない。 やっと検品を終えた凛がサインを終え多田に伝票を手渡した。 「遅くなってしまってすみませんでした」 「いえ…どうも、ありがとうございました」 「…ありがとうございます」 …くそぅ、今日は飴を差し出してみようとエプロンのポケットに準備してたのに、そんな場合じゃ無くなってしまった。 社長め、バックの種類いくつ増やす気だ! ポケットの数なんてどうでもいいってばーっ。 今日は金曜日。 次に熊さんを目撃するのは3日後になってしまった。
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