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キャンプ用品を扱う売り場で、二人並んで商品を手に取る。
この手の物に触れて来なかった凛にとって、どれも目新しくワクワクと胸を弾ませた。
「これ可愛い!」
「ああ…」
凛が手に持っているのは、少しレトロなデザインの赤いランタンだ。
「でも、匡平さんはもう持ってますよね?」
無駄なものは買わないのが普段の凛だ。
そのまま戻そうとした所で、多田がランタンをすくい上げた。
「一人一つずつあった方が、いい」
本当は欲しかった凛の顔がぱあっと輝く。
そのわかりやすい凛の表情に多田の瞳が緩んで、その近くにディスプレイされていた同じような赤のマグカップを手に取った。
「…これもいるね…凛さんは赤が、好きなん?」
ああ、耳が馬鹿になっている。
多田のゆっくり話す低い声に、毎回背中がぱちぱちと泡立つ。
「…明るい色が、好きです」
色白の凛は、服はどうしても寒色を選ぶ。
反対に小物は、自分の好きな暖色や鮮やかなものが好きだ。
「…」
多田は凛の手を引いて歩く。
細々と買い足して、また支払いで少し抵抗して車に荷物を置きに戻った。
「凛さん、昼飯…何食べたい?」
「お昼は私が出しますからっ」
キャンプ用品もピンキリだけれど、多田が選ぶものはそこそこお値段がするものばかりで、凛はとんでもなく申し訳なかったのだ。
二人並んで歩きながら、下から見上げる微塵も怖くない凛の眼力。
多田はいつもの無表情で凛を見下ろし、ちょっと片眉を上げた。
「…俺、蕎麦食べたい…」
先程のあれは、多田の困った顔なのかと凛が凝視する。
「…お蕎麦ですね!天ぷら乗せましょうね?」
かけ蕎麦でも食べる気なのではと、凛はそう釘を刺してクイクイと多田の手を引きながら蕎麦屋を探して歩き出した。
幸いキャンプ用品店の入った商業施設には飲食のフロアがある。
小さな凛に手を引かれ、多田がゆっくりついてくる。
「…」
「私はうどん派なんですよー、昆布うどん美味しいですよね?…ああ、でも昆布はペラペラのやつより糸みたいなやつが良いんです」
「…」
「トッピング出来るお店あるじゃないですか?…その時はイカ天がすきでー」
ふわふわと揺れる髪と…弾んだ声。
小さな手が多田の手を引いて…その手の先を多田から見れば随分小さな背中が意気揚々と歩いていく。
ふいに多田が凛の手を柔らかく引いた。
「?」
その感触に凛の足が止まり、振り返る。
なぁに?と瞳で問いかけたその数秒後。
壁側にそっと手を引かれ、多田が大きな身体を盾にした。
「…え?匡平さ、」
ふわ、と掠める様なキスがひとつ唇に触れた。
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