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多田にメッセージを送ってから時間が経つと、少しずつ凛も落ちつきを取り戻していった。
起きてしまった事はどうしようもない。
もしかしたら島崎にとって、とても重要な注文だったからあんな風に怒鳴ってしまったのかもしれない。
信頼関係があったからと言っても、一応社内移動の確認FAXを省いたのは凛の不手際だ。
…まぁ、貰い受ける方が送り、それに返信するのが普通なのだが。
何かしらの書面を残す事をしていれば、こうはならなかった。
反省して、もう二度と同じ事はしない。
自分に非がひとつも無い訳では無い。
この事は勉強だと思おう。
「川野、なんか島崎からクレームあったぞ」
帰り際、店を出ようと上に上がったところで帰り支度をした店長に声をかけられた。
「…え?」
「いや、話聞いて…おかしいとは思ったけど…まぁ、次はしっかり確認して紙でもメールでも残しとけ」
「…はい、すみません」
「島崎の経験不足だろ…キレ方がねちっこかったから、多分他にもなんかミスってお前に当たったんじゃないか?…気にすんな、お疲れ」
店長はどちらかと言えば気の毒そうな目で肩を叩いてくれた。
普段なら一緒に店を出る中野は今日に限って用事で一足先に出てしまった。
戻しかけた気力は、またグンと落ち込んでしまった。
あの後さらに、店長にまで電話していたなんて。
どれだけ腹の虫が収まらないのだろう。
胃の奥がズンと重い。
トボトボと電車に乗って家を目指しながら、凛は持ち前のプラス思考を引き出せずに沈んでいった。
…ひどい。
悔しい。
多田のメッセージはない。
もしかしたら今日は残業かもしれない。
でも、ちょうど良かった。
多分、今自分はとても情けない顔をしている。
多田が来てくれるまでに、ちゃんと浮き上がっていなくては。
最寄り駅の改札を抜けて、マフラーに顔を埋めて歩き出す。
食欲も無い。
とにかく、部屋を温めて何か甘いものでも飲もう。
座って一息ついて…反省だけ残してもう忘れてしまおう。
じわりと滲みそうになる涙を押し込めて、顔を上げた。
駅を出て家の方向に数メートル。
「…匡平さん?」
ガートパイプに浅く腰掛けた多田が、ポケットに両手を入れてそこに居た。
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