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「…そしたら…明後日、夜迎えに来ます」
「はいっ、準備して待ってます!」
牛丼を食べ終えた多田が、玄関を出ていく。
もう少し一緒にいたいという気持ちを抑えて、凛は小さく手を振った。
多田が居なくなった部屋は途端に寂しくなる。
でももう、暗い気持ちを思い出したりしない様に凛はシャワーを浴びてすぐにベットに潜り込んだ。
2日頑張れば多田と一緒にいられる。
大丈夫だと気持ちを奮い立たせた。
翌日は昼を過ぎるまで、何もなく過ごせた。
多田との検品も、大丈夫だと目配せをして元気に仕事をこなした。
夕方。
外線だと言われ受話器を上げた。
『凛?』
「佳奈ちゃん?」
それは、問題のあった島崎と働く佐和からだった。
『ごめんね、昨日私休みでさ…大丈夫だった?』
島崎との件だ。
「うん…びっくりしたけど…」
佐和はそうだよね、と向こうがわでため息をついた。
『凛、もしかさしてさ、多田さんと付き合ってる?』
ドキンとして、一瞬息を詰めた。
「…うん、ほんとについ最近なんだけど…」
『やっぱりか…島崎の八つ当たりだよ、私おかしいと思って調べたんだけど、客注受けてなかった』
「…え?」
怒鳴られた以上の衝撃に、凛は言葉を失った。
客注を受けていなかった…?
『島崎、今日休みだからさ…昨日の騒動朝違う人から聞いて…もしかしてと思ったんだ…あの子前から多田さん狙ってたのよ』
佐和が言うには、多田が荷物をおろす様になってしばらくすると、島崎は多田にアピールする様になったらしい。
検品には誰より先に駆け寄り、隙あらばボディタッチを繰り出していたらしい。
「ほら、あの子自分に自信のあるタイプでしょ?」
確かに、メリハリボディのちょっと男好きのする顔だ。
しかし多田は、あの無表情でやり過ごしまるで相手にされずにいた。
多田のわかりにくさからか、本気で相手にされていないのかを読み取れず、現在進行形で島崎は多田に張り付いていたらしい。
今まで相手にされなかった事がない島崎にとって、多田は面白いタイプだったのかもしれない。
その多田が、凛と付き合っていた。
腹が立ったのだろう。
島崎にとって、どちらかと言えば地味で大人しめの凛は自分より『格下』の女だろうから。
彼女には、よからぬ噂もあった。
担当から配送、しいては本社の人間とまで軒並み関係があるとか、ないとか。
それでも、誰にでもフレンドリーな性格で人当たりも悪くない。
佐和と3人で食事に行くには問題なかったのだけれど。
「でも、私誰にも…」
『島崎の今のお気にのセフレ、凛の最寄り駅に住んでる』
あの近辺で目撃されたと言う事か。
『こっちでも気をつけとくけど、やり取りある時は念入りにね』
「うん、佳奈ちゃんありがと」
電話を切って、フツフツと怒りが込み上げた。
つまり、あの攻撃は受ける筋合いはなかったのだ。
あえてそうなるように、持っていかれた…。
そして何より、多田にペタペタ触っていたのだ。
凛でも気安く触ってないのに。
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