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初めてのお泊まり
片付けは多田がサクサクと済ませてくれた。
「手早いですねー」
「…高校の頃、皿洗いのバイトしてたから」
「へー!」
多田の隣で、買ってきた紅茶のティーパックを開けて二人分カップに湯を注ぐ。
「…寝袋、見る?」
「はい、種類いっぱいありますか?」
多田と並んでラグに座り、パソコンを覗き込む。
多田が胡座をかいて画面をスクロールしてくれるのを、凛は膝を抱えて目で追った。
「床、硬いやろ…これ、座ってください」
凛には大きなビーズクッション。
まるで包まれるサイズに王様の様に座り直す。
「あ。これ可愛い。寝袋って緑とか黒のイメージだったけど、色のバリエーションあるんですねぇ」
「うん…気温に合わせて色々ある」
多田の横顔を見ながら、凛はおもむろに手を伸ばした。
ペタリ。
スクロールしてくれている腕に触れる。
凛に合わせて高めに設定してくれている暖房のせいで、多田は半袖だ。
見た目より滑らかな肌に、温まった凛の手が重なる。
ゆっくり、多田が凛に視線を向けた。
「…島崎さんの、消毒っ」
ペタペタ、ペチペチと凛が多田の太い二の腕に触れる。
胡座で、丸まった背中がゆっくり傾いた。
「…」
唇がふわふわと凛の頬を掠め、瞼にキスをした。
その瞳を開ける前に、唇に押付けられた熱。
何度か角度を変えて啄まれた。
「ん…」
擽ったさにもれた吐息を合図に腰を引き寄せれた。
腰から背中を緩く撫ぜる手の平は気持ちよくて、凛は自分を支えてもビクともしない腕に体重をあずけた。
…ああ、好きだなあ、この人が。
凄く好きだ。
凛はそっと多田の背中に腕を回してきゅっと抱き着いた。
ピッタリくっつきたい。もっと。
全部、全部自分のものだと感じていたい。
恋とは、こんなに強い独占欲をうむものなのかと遠くで考えながらうっすら瞳を開けた。
多田の穏やかで、でも少し男の人の光を宿した目が凛を覗き込む。
「…キスって…気持ちいんですね、匡平さん」
トロリと溶けた凛の微笑みに、多田の喉仏が上下に動いた。
無表情の瞳が、考える様に数回瞬いた後、
「…もう少し…触ってもかまへん?」
凛はすんなり頷いていた。
もういい歳だ。
これから先にどうなるのか、知らない訳では無い。
経験がないだけで。
…それを多田と経験する。
少しも怖くはない。
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