熊さんの餌付け

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「…激務すぎる…」 発注と品出し…店舗の広さに比例して、いつも大変なのに。 社長がチラシを打ったせいで週末家でもPOPを書いた。 おかげで肩が凝りまくっている。 そして、待望の熊さんを見て更に気分は沈んだ。 あれ、何箱あるっけ? 3往復はしてない? 「おはようございます」 「おはようございます」 どーんと19箱。 目が痛い。 「凛さーん、飲料ケースどれくらい積みますかー?」 …。 「あ、それ倒れない積み方あるの、私積んで落ち着いたら伝授するよ…えーっと…小木君お菓子出しといてくれる?」 「了解でーす」 視界の隅にロング台車に山積みの2リットルの緑茶。 …激務すぎる。 絶対肩と腰が死ぬな。 「は、はじめましょうか?」 今はとりあえず検品を片付けなくては。 そしてあわよくば飴ちゃん攻撃を。 結果、飴ちゃん渡せず…。 私の意気地無し。 「ありがとうございました」 「…ありがとうございましたぁ…」 心の中で凹みつつ、凛は次はと緑茶に向かって歩き出す。 2つのカゴ台車からロング台車に移された緑茶は、縦4箱の横2列の8箱でどーんと凛を待っている。 うーし、やるか。 身体は小さいが心は男勝りである。 むんと腕に力を入れてケースに手をかけた所で、 「…どこに、積みますか」 と背後で低い声がした。 「へっ!?」 ほんの後ろに立っている熊さん。 もはや壁。 「…どこに?」 「あ、あぁ、えっと、そこに」 凛が指指したのは、すぐ横の柱だった。 無表情の熊さんが、ほんとに申し訳程度に頷いた。 そしてぬっと腕をのばし。 上の2ケースをいっぺんに抱えた。 とん、とんと音を立てずに全て、あっという間に上の2ケース全面を柱の横に下ろしてしまった。 台車の緑茶は、凛でも下ろしやすい高さになっていた。 「…川野さんのたっぱじゃあ…この高さは酷です」 初めて聞いた長文は、ロボットみたいな平坦な抑揚だった。 「は、はい、ありがとうござい、ます」 熊さんが会釈して、のっそのっそと持参した台車に向かって去っていく。 やばい、ときめいた。 一緒に働いてる男が誰一人しなかった心遣いに、凛は心底感謝した。 全部下ろして積んでいかない、さり気ない手助けが丁度いい。 …あの人、私の名前覚えてくれてたんだなぁ…エプロンのポケットにつけたネームプレートや、伝票に押す名前なんて覚えていないと思ってた。
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