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凛は照れたように微笑んだ。
「とんでもない間違いをしても…」
付き合おうと交した約束、多田はその言葉をなぞる。
「…大目に見ます…と言うより…」
多田がなんの力みも無しに凛を抱えて立ち上がる。
隣りの部屋が寝室になっていた。
床に直置きされている大きなマットレスの上の整えられた敷布の上に下ろされて、ゆっくり多田が小さな凛の身体を跨いだ。
「…何してても、可愛い…」
半分困ったような囁きと、乱れて散った髪を整える優しい仕草に凛はそっと目を閉じた。
閉められたままのカーテン。
隣の部屋から入る照明の光。
パチリと、これも直置きのランプに光りがともる。
「嫌やったら…すぐ言うて下さい」
多田の声に頷いて、恥ずかしさに負けないように多田のTシャツの裾を掴んだ。
大きな手と、少しかさついた唇が首筋を撫ぜてふわふわと触れていく。
凛の手触りを確かめる、優しい触れ方だ。
「…初めて、引き継ぎで会った日…凛さん高い脚立で…吊りPOPつけてました」
プチ、とボタンの開けられる音が耳について凛はふ、と息を吐いた。
怖いわけじゃないのに、苦しいくらい心臓が鳴っている。
「…そんなん、男の仕事やのに…」
部屋の、リビングより冷たい空気を肌が拾った。
薄い黄色の下着と、白い肌。
「…川野ですって脚立の上から笑ってた、あの日」
「…っ」
下着の上からそっと多田が胸に触れた。
珍しく、途切れない様に凛に語りかけながら、多田が緩くそこを撫ぜる。
「…何件も回った中で、覚えたんは…凛さんの名前だけやった」
じわりと、泣きたくなる様な気分になって目を開けた。
「……毎日、毎回…凛さんばっかり見てた」
「…」
多田の目が、優しく細まり瞬いた。
「…嘘みたいやな…こうして触れんの…」
ありがとうと、多田が囁いて…大事そうにゆっくり、おとぎ話の騎士がお姫様の手の甲にキスをする様に。
胸の柔らかな皮膚に…忠誠のキスを落とした。
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