952人が本棚に入れています
本棚に追加
「う、ぐ!」
朝目覚めると、大きなベットの真ん中に一人で寝ていた。
見えた時計の針は八時をまわったところだ。
一人で眠っていた事が寂しいとか、そういう気持ちになる前に、全身の筋肉痛に呻いた。
休みの日に目覚ましをかけないで眠れば、余裕で10時を過ぎるまで眠れる凛なのだが。
尿意に叩き起こされたのだ。
うつ伏せから腕に力を入れた所で痛みに呻き、ぽす、と枕に逆戻り。
そろっと動かして見たけれど、下半身はもっと酷そうだ。
股関節がおかしい…。
おっかしいなー、キラキラの少女漫画や小説とはだいぶ違う。
もっとこう、朝チュンキラキラなんじゃないのか?
とにかく、用を足したい。
猛烈に用を足したい、膀胱が痛い。
「き、匡平さぁーん…」
情けない声でベットから助けを求めた。
背に腹はかえられぬ。
直ぐに半開きのドアから多田が入って来た。
「どうした?」
ベットの脇に膝をついて多田が覗き込んで来た。
「…申し訳ないのですが…」
「…?」
「トイレに…運んで下さい…」
凛を抱えてトイレの便座におろし、多田は終わったら呼んでとドアを閉めてリビングに戻っていった。
ギシギシいう身体をそっと動かして用を足す。
ホッとしてドアを開けると、その音で多田がリビングから迎えに来てくれた。
脇の下に手を入れてひょいと抱えてくれる。
「…ごめんなさい」
「ごめん」
二人同時に謝って目を合わせる。
「…ちょっと、体勢考えなあかんかった…」
無表情だ、無表情なんだけど…凛にはしょぼんと垂れた犬の耳が多田の頭に見えた。
「ふふっ、大丈夫、ちょっと不慣れで力み過ぎただけですよー」
うっと呻きながら多田の腰に足を絡めてギュッと首に腕をまわした。
安定感が漲る抱っこだ。
まだ少し反省を滲ませた目と見つめ合う。
「匡平さん、ちゅー」
凛が唇を突き出す。
うちゅ、と色気のないキスをお見舞いしてやった。
多田の吐息が震えて、ふわりと唇を塞ぎなおされる。
リビング手前の冷蔵庫の前で、何度も唇を触れ合わせていると、
「…あかん」
おもむろに多田が顔を遠ざけた。
「へ?」
しまった、歯磨きがまだだったと凛がハッとした所で
「身体が反応する前に…やめなあかん」
と無表情の多田が真面目に呟いた。
「うはっ、あははっ!」
抱かれたまま笑い続ける凛をクッションに下ろしてくれる。
先程選んで表示させていたら寝袋とローソファーを凛に確認して頼んだ多田が立ち上がる。
「朝飯、何か買ってくるから…」
「え?作りますよー」
「あかんよ…待ってて」
多田がテーブルの上の財布だけ掴んで出かけてしまった。
ちぇ、一緒にいきたかったなぁと凛はクッションの上で大人しくテレビをつける。
数分で飽きた。
車の鍵はテーブルにある。
きっとすぐ近くに買いに行ったのだ。
お茶でもいれて待っていようか。
そう思った所でインターホンが鳴った。
最初のコメントを投稿しよう!