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「大丈夫ですよー、さっきは鼻の痛さで出遅れたけど、本来ならガツンと言い返すつもりだったんですから」
「…ガツンと」
「はい、匡平さんをシェアするなんて耐えられません、私のだから金輪際無駄に触るなって怒ろうと思ってたんですよっ」
多田が言った、惚れた女を触られたくないは、凛にも言える事だ。
「…ああ、もう触ってこんでしょう…大丈夫」
多田の目の色が優しくなった。
言葉は無くても、凛にはちゃんとわかる。
「匡平さん、ここのチョココロネ結構有名ですよ?ほら、食べてみて」
「…あー、甘いのはちょっと…」
「えっ、これからクリスマスもバレンタインも来るのに?」
甘いものが好物の凛の悲壮な顔を見た多田。
「いや、…じゃあ…」
チョココロネの袋を開けた多田が、しっぽの方を3分の1もいだ。
いや、そこあんまりチョコ入って無いとツッコむ前に口に放り込む。
数回咀嚼してゴクリと飲み込んでしまった。
「…」
「…」
多田の手がテーブルのブラックコーヒーに伸びていくのを見て、こりゃケーキも、バレンタインのチョコも別の何かに置き換えなくてはと、凛は苦笑した。
「…ねぇ、匡平さん」
「…」
多田がちゃんと目を合わせて凛の言葉を待っている。
「クリスマスも、お正月も、バレンタインも…えーっとあと、誕生日もっ。…一緒にお祝いしましょうね?」
ちゃんと甘くないのも用意しますからと、凛が笑う。
多田は少し俯いて、小さく頷く。
ああ、これは照れてるんだな…と思った。
雑に観察すれば、ちょっと面倒臭いと思われている風だけれど。
「うふふ、可愛い」
思わずポロリと心の声をもらした凛。
多田が無表情で顔を上げた。
お、これはお怒りか?
…いや、違う。
長い腕が凛を引き寄せて顔を寄せた。
「甘いの…引き取って…」
そういって塞がれた唇は、コーヒーの苦味で上書きされた後で…ちっとも甘くなかった。
逆に凛のクリームパンの甘さにやられたはずの多田は、それでもキスをやめたりしなかった。
その数分後、自分で仕掛けておいてこれ以上凛に触れると明日に響くと葛藤した多田は、本当に熊の様に呻いた。
『熊さんの生態…怒るとよく話す。しかし、甘いものと本能に逆らう事はちょっと苦手』
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