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凛の反撃
多田の為に、何が出来るだろう。
とにかく、島崎と共に働く佐和の鬱憤は溜まりに溜まっていた。
どうやら佐和の彼氏、吉田に売り上げ報告の電話をかける度に島崎は彼に猫なで声でアピールを繰り返していたらしいのだ。
それを近くで聞いていた佐和はいい加減我慢の限界だった。
しかし、自分の彼氏だと言えば余計躍起になって変な事をしないかと堪えていたのだ。
人の物に手を出して優越感に浸ることを好物とする、クズ女だと、佐和は毒を吐いた。
『でもさぁ…今回はちょっとやり過ぎよ…犯罪の域だわ』
「…佳奈ちゃん、私も何かさせて」
島崎に噛みつかれても構わない。
多田はどうかわからないけれど、それで多田との関係が周囲に知られても構わないのだ。
多田も、女性に振られて嫌がらせをする男とレッテルを貼られるくらいなら、垢抜けない自分と付き合っていると知られる方がマシなはずだ。
そのまま、部屋にあがりコートも脱がずに座り込んで凛と佐和は長い時間話し続けた。
大まかな道筋を作って電話を切った。
途中多田からの連絡があるかと気にしていたけれど何も無かった。
まだ会社だろうか。
きっと驚いただろう。
ちゃんと、否定した筈だ。
まだ多田の奥深くを知らない。
だけど、凛はほぼ確信に近い所で多田は凛の名前を出さないのでは無いかと思った。
電話口で島崎に叱責され、落ち込んだ所を見せてしまった。
多田の家で島崎と鉢合わせて痛みに涙ぐむ所も見せた。(多田の胸の硬さが原因だけど)
きっと、多田はもう凛を島崎から切り離したいはずで。
やっぱり多田からの連絡は無かった。
風呂を終えても、寝る準備を済ませても、電気を消しても。
多田からの着信は無かった。
それが優しさだとわかっていても、やっぱり少し…悲しかった。
水、木、金と多田は普通に荷物をおろしに来た。
凛も多田に何も言わなかった。
ただ金曜日の夜、佐和との計画通りに多田に連絡をした。
寝る準備を整えて、ベットの上に正座して。
電話をかける。
『…もしもし』
多田が話してくれなくても、佐和から毎日情報を得ていた。
佐和の店の担当が情報源だ。
愛妻家を公言するその担当は、妻の惚気で島崎を牽制し唯一まともに話せる相手らしい。
火曜日のうちに、その担当にも島崎からのクレームは届いていた。
会社に戻った多田は、事実確認され否定した。
しかし、証拠がない。
やっぱり担当は、凛との事を知らなかった。
好意を受け取らず気分を害したと説明した多田。
会社も困惑し、とにかく荷物の取り扱いに念を入れろと注意で済んだのだが。
担当が言うには、今まで一度もクレームを出した事の無い多田だからこそ、会社も多田の言う事の方に信ぴょう性を感じてくれたらしかった。
しかし、一日置いて多田を配送から外せと本社の部長経由で島崎からの申し入れがあったらしい。
このまま行けば、もしかすると年明けから人が変わるかもしれない。
そう担当が話していたと佐和が言った。
それを聞いた凛は毛穴が開くほど腹が立った。
「匡平さん、明日お迎えは要らないです」
『…ん?』
少し疲れて聞こえる気がする多田の声。
凛は明るく続けた。
「ちょっと用事が出来てしまって…少し遅くなるかもですけど…終わったら匡平さんの部屋に行ってもいいですか?」
『うん…かまへんけど…連絡くれたら迎えに行く…』
もしかしたら、その前に会う事になるかも知れないと思いながら凛はおやすみの挨拶をした。
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