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水曜日からの数日で、佐和とその彼、吉田。
そして凛と中野で、仕事をこなしながら出来るだけの情報を集めた。
吉田は島崎の店の通話記録を。
佐和と凛は他店の話し安い女子社員に多田が運ぶメーカーの商品の不備が今まであったかどうかを聞いた。
島崎がクレームを入れたと言う話は多田が回る各店に知らされていたので、話は早かった。
聞いてみれば、社内恋愛の彼にちょっかいをかけられた女性社員は数人居たのだ。
多田は無愛想だが仕事は丁寧だと定評があった。
無論、女性社員にちょっかいをかけた事も無い。
そして、中野がいい仕事をしてくれた。
彼女と繋がりがあるであろう男性社員に秘密裏にコンタクトを取り、彼女の補助をする事に釘を刺してくれたのだ。
島崎は各店の自分のお手つきに多田のメーカーの商品のクレームを頼んでいた。
妻子持ちや彼女持ちの社員にはばらされたく無ければと、遠回しに脅したと言うのだ。
そして、凛は本部の部長に電話をかけ土曜日の閉店後にアポイントを取った。
事が事だ、本社ではまずいと居酒屋の個室を予約した。
そして、居酒屋に面子が揃う。
凛、佐和、吉田。
中野はたいした事をして居ないし、証拠を提示するものも無いと帰って行った。
部長はどこか警戒した顔をしていた。
「…で、島崎の件だって?」
「はい、部長は橋渡しをされただけで、よく理解されていないと思いますので…見ていただければと」
佐和が動画を再生した。
「……」
部長の眉間に皺が寄った。
「そして、これはプライベートな話しなのでお話しするべきか悩んだんですが」
凛は真っ直ぐに部長と目を合わせた。
「好意を寄せ、断られたのは島崎さんの方です。…私と多田さんはお付き合いをしてます…先週、島崎さんは多田さんの家に突然訪問して…私と同時進行でも構わないので付き合って欲しいと言いました」
佐和がついでとばかりに口を挟んだ。
「…あと、この前客注のミスで川野さんの店にクレームを入れたアレも、彼女の自演自作です」
はあ…と部長は長いため息をついた。
「…なるほど…おかしいとは思った…つい最近まで配送がよく仕事をして助かると言ってた後だったから」
部長は独身だ。
凛とはひと回り以上違う。
島崎の身持ちの軽さを知りながら、本気になっていたのだろうか。
呆れと一緒に、悲しさが見える気がする。
「…部長、通話明細をとりました…店から多田さんの携帯に頻繁に連絡してます、一応確認をとりましたが他の社員はかけていません」
トドメに吉田が明細を差し出した。
もう庇いようもないと、部長はしばらく目を閉じて考えていた。
「…こちらから、多田さんの上司の方へ謝りに行くよ
…島崎は、移動か…解雇だろうな」
多田が回らない範囲の店に移動か、それを納得しなければ解雇、部長はそう答えを出した。
佐和がうーんと唸った。
「彼女、納得しますか?…余計に危害を加えられたら困りますよね」
「いや…あぁ、この証拠、送ってくれるかい?…俺が調べた事にする…角度的に防犯カメラに映ってないか確かめるよ」
悪いねと何故か部長が謝った。
凛は部長が本当に動いてくれるのか、不安だった。
彼女が泣いて謝れば許して絆されてしまうのでは無いかと思った。
「必要なら、多田さんの通話履歴も取ります、かけ直す以外に絶対かけていない自信がありますから」
まだ、見せていない証拠だってあると真っ直ぐ部長を見つめた。
けれど、部長は疲れた微笑を浮かべて首を振った。
「大丈夫、ちゃんとする…まだ、多田さんの会社はやってる時間だね?とりあえず事の経緯は今日中に伝えて…そうだな、出来るだけ早く島崎を連れて謝罪に行くから」
よろしくお願いしますと頭を下げて、思ったより随分早く解散となった。
運ばれたドリンクも一口、二口で切り上げて店を出る。
佐和と吉田に何度も礼を言って別れた。
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