熊さんとの攻防戦

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熊さんとの攻防戦

おかしい。 熊さんが微動だにせずにじっと目を閉じている。 とりあえず今は多田と触れ合っていたいと、そのまま多田にキスの雨を降らせ始めた凛だったが。 ちゅ、ちぅ…ちぅーーーっ いくら凛が熊さんの頬を吸おうとも、熊さんは動かない。 冬眠か?と訊きたくなるほど動かない。 凛を膝に乗せ、凛の身体が安定する補助で背中に触れたまま、無言で目を閉じている。 ちゅ、 唇を合わせてみる。 何でキスを返してくれないのか。 ちぅ、うちゅ、ちゅっ。 触れるバリエーションを変えても、息を潜める熊さん。 「…?」 キスして欲しいのに。 初めての夜、多田は何度もキスしてくれた。 キスが嫌いでは無いと思う。 因みに、今日の昼食はサンドイッチで…ちゃんと歯磨きもした。 はっ、さっきのココアか? 甘いものの嫌いな多田は、我慢しているのか? 「匡平さん…」 「…ん?」 目を開けた多田を覗き込む。 「…歯磨きしたら…キス、してくれる?」 唇が半分尖りかけた凛の顔を見た多田の目が泳いだ。 無表情の目だけが、多田の動揺を表している。 「…いや…今、精神統一を…」 「…?…どうして?」 腰に下がった多田の手がほんの少しだけ自分の胸に凛を引き寄せた。 「……」 「………」 下腹部に感じる多田の変化に、ぽっと凛の頬がピンクに染まる。 「向こうの部屋…まだ寒いし…飯も、風呂もまだやし」 うふふ、凛が吹き出した。 「…こないだ…身体しんどかった、やろ」 どこまでも優しいひと。 不慣れな自分の為に、精神統一なんて。 クスクス笑う凛と、微妙に困った多田の目の色。 「明日…お休みですよー、ちゅうしたい…匡平さん」 多田が柔らかな触れるだけのキスをして、名残惜しそうな唇が頬を掠める。 この人が愛おしい。 遠慮ガチに、頬に唇を触れさせる多田の背中に腕を回して、その硬い胸にピタリと身を寄せる。 広い胸にすっぽりおさまって囁いた。 「…好き」 「…」 「匡平さん、大好き」 「…」 腰に回ったままの手が、往生際悪くシャツの裾をたくし上げて、そろりと入り込む。 しめしめと、凛はその首筋に唇を押し当てて微笑んだ。
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