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同棲
多田は家に着き、凛を玄関に入れるとそのまま自分は靴を脱がなかった。
「一時間もかからへんから、ゆっくりしてて」
そう言い出かけてしまった。
どこにいったのだろう。
凛はとりあえず軽くフローリングの掃除をして、持ってきた作り置きを冷蔵庫に入れさせてもらいながら帰りを待った。
帰ってきた多田は、結束バンドで縛られたそこそこのサイズの荷物を持っていた。
「お帰りなさい」
玄関で出迎えた凛は、荷物を受け取ろうと手を出しながらそう声をかけた。
くつを脱ごうと屈んでいた多田が、ふと手を止めて顔を上げた。
「…?」
「…ただいま」
荷物の代わりに、多田が靴を脱いでそっと屈んだ。
ちゅ、と唇にキスを一つ落として、荷物を片手に奥に入っていく。
凛とは違う抑揚の、語尾が下がるただいまは優しくて、何故か胸が苦しくなる。
「何、買ってきたんですか?大きな荷物ですねー?」
多田はうん、と一言だけ答えてリビングの空いたスペースにそれを置き、工具セットを持ってきた。
梱包を解くとスチールの支柱に木製の天板と棚を手早く組み立てていく。
「…棚、いるやろ?」
凛の荷物を収納するためのラックだ。
三段あるラックは凛の持ってきた荷物を置くには十分な大きさで。
ひょいとそれを抱えて、多田は寝室の壁側に設置してくれた。
「あと、BOX二つあるから、組み立てて好きなとこに置いて」
白い収納BOXは下着などの目隠し用。
「…匡平さん、ありがとう」
多田は小さく頷いて、
「シャワー浴びてくる…」
とバスルームに入って行った。
凛はその間に下着を収納してしまう。
…多田は、女性が見られたくないという所をいつもさりげなく気遣ってくれる。
もしかしたらお姉さんか、妹さんが居るのだろうか。
多田は家族の事を話さない。
まだ付き合いが短いし、凛も確か家族構成を少し話した位だったか。
とにかく、多田の心遣いはとても有り難かった。
凛は少し考えて、ふと顔を上げた。
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