同棲

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多田がオリコンと共に現れると、中野が凛より先に動いた。 「検品はお願いするので、ちょっと待っててください」 中野はオリコンをおろし、フタを開け始めていた多田の側まで行くと、少し屈んで多田に何か話しかけた。 多田はゆっくり顔を上げ、中野の顔を確認すると屈めていた腰をあげた。 そのまま二人、店の奥の方へ歩いて行ってしまう。 とても気になる所だか、凛が追いかけたらレジは空になってしまう。 ソワソワしながら接客をこなし、二人の帰りを待つしかない。 ほんの数分で二人は戻ってきた。 中野はレジに入って来て、 「検品お願いします」 といつもの飄々とした雰囲気だ。 多田も元いた場所で黙々と検品の準備を始めている。 「いやー、あの人あの雰囲気でまさかの溺愛っすね…俺がキュンキュンするわー」 「はっ?!」 「はいはい、いいから検品してきてくださーい」 ヒラヒラと手を振って中野から追い出される形でレジを出る。 多田は準備を終え凛が来るのを待っていた。 「お疲れ様です」 「お願いします」 いつもの様に、仕事仕様の多田と挨拶を交わす。 伝票を受け取り、多田のすぐ近くに腰を落とした。 「…さっきの…何ですか?」 気になった凛がボソボソと問いかける。 多田は、チラりとレジに視線を向け…少しだけ凛に顔を近づけた。 「…凛さん、送ってもらって」 「…え?」 「落ち着くまで送って貰って…」 多田がそう言うのならと凛は頷いた。 多田はそれ以上何も言わずに検品を済ませると帰って行った。 レジに戻ると、中野がふわりと笑った。 「多田さん、俺が送るって言ったら…一瞬すげえ複雑な目してましたよ…嫌なんですね、男と歩かせるの」 中野は貴重なものを見たと笑った。 「…じゃああの…申し訳ないけど…」 「いいですって、俺が言い出したんですから。嫁も今回の事すげぇキレてたし…大丈夫です」 安全の為とはいえ、たくさんの人に協力してもらって申し訳ない。 営業中に部長からの連絡があるかと思ったけれど、残念ながら何もなかった。 まだ多田の所に正式に謝罪をしていないのか、それとも島崎が納得していないのか。 中野は約束通りに凛を多田のマンションの部屋の前まで送ってくれた。 「ありがとう、中野くん」 「いーえ、この先のケーキ屋のタルト、嫁が好きなんで買って帰れてラッキーですわ…おやすみなさい」 さ、入ってと中野に促されもう一度礼を言って中に入った。 多田からの連絡はないけれど、無事帰宅とメッセージをいれて夕食の準備に取りかかった。
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