護る者と、護られる者。

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護る者と、護られる者。

多田は凛が夕食のオムライスを後は包むだけにして、明日の弁当の下ごしらえを始めた所で帰ってきた。 「お帰りなさーい」 パタパタとかけて出迎えると、多田が勢いのついた凛の身体を受け止めた。 「ただいま」 語尾の落ちるただいまに微笑んだ頬にキスをくれて、空の弁当箱が手に乗った。 「…今まで食った弁当で、一番…美味かった」 ふわんと微笑みまでついていたものだから。 凛は撃ち抜かれて崩れそうになった。 「…美味そうな匂い…してんなぁ…」 「お、オムライスですよっ」 「…風呂はいって、すぐ食べる」 ありがとうと凛の頭を撫ぜて、多田がバスルームに入って行った。 「…鼻血でそう…」 無愛想でも好きだった凛にとって、少しず追加されていく多田の愛情表現は思いもよらない産物で。 初めての彼氏が多田で、本当に良かったと思う。 …出来れば…最後の彼氏であればいいと思う。 さて、オムライスを巻こうと思った所で、携帯が鳴った。 覗き込んだ画面には、島崎の文字。 ドキン!と胸が弾んで菜箸を握りめたままで、カウンターの上の携帯を凝視する。 何か動きがあったのだ。 でも、部長でなく島崎? …何を言われるだろう。 多田が風呂から出てから対応するべきか、一瞬悩んだ。 けれど、着信音は長く続いている。 佐和や中野、多田にたくさん助けて貰っている。 自分も何かしたいと、思っていた心が応答のボタンを押した。 「はい」 『ねえ、なんで部長が全部知ってるの?』 低く、硬い声が開口一番にそう言った。 「え?何?」 『移動って言われたんだけど!市内の端の、蚊帳の外の店に!』 蚊帳の外と言うのは、その店舗は市内の中でも一番端にあり、本部便も遠さに3日に一度にまとめられた店舗だ。 オフィス街や駅近を選んで建てられた他の店舗よりずっと不便な所にある。 通常なら、その店舗に近い所に居を構える社員が配属される。 「…私は、何も聞いてないけど?」 全部とはどこまで話したのだろう。 ここに突撃して来た事はさすがに伏せているとは思うけれど。 『…嘘、アンタが泣きついたんでしょ?被害者ぶって部長に話したんでしょ!』 …全然反省していない。 凛が感じたのはそれだけだった。 「…だから、私は知らないよ?部長はなんていったの?…というか、その喧嘩腰やめてもらえる?」 フツフツとお腹の奥で怒りが込み上げ始めるのをグッと堪えた。 応戦の仕方も、考えなくては助けてくれた人達まで巻き込んでしまう。 『多田へのクレームも話した事も全部!』 「…多田さん、でしょ?」 我儘を重ねた島崎に、多田を呼び捨てにする資格はない。 『…ふざけんなっ、あんな大男、ちょっと興味があったから相手してあげようと思っただけなのに…何で私が謝りに行かなきゃいけないわけ?…あれぐらいの事で大袈裟に!』 根こそぎアホなんだなと、ため息をついた。 「あれぐらいのこと?…会社に不名誉な嘘のクレーム入れるのが…あれくらいの事なの?」 もう我慢できないと、声に力を込めた所で携帯を持つ手を後ろから掴まれた。 その手が携帯を取り上げ、終話ボタンを押しカウンターに伏せた。 見上げた多田の表情は、本当の無だった。
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