護る者と、護られる者。

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普段無表情の多田だが、これ程何も読み取れない顔は初めてだった。 すぐにまた鳴り出しカウンターの上で震える携帯。 多田はそれをそのままに、ポケットから自分の携帯を取り出した。 耳に当てて数秒。 「…多田です…例の謝罪は結構です…今現在の川野宛に電話をかけさせるのを何とかして下さい」 地を這うような、抑揚のない低い声。 その目はじっと鳴り続ける凛の携帯に向けられている。 「…ええ加減にせんと、俺が動きますよ…」 まだ鳴り続ける呼び出し音。 部長の返答はどうなのか、多田はしばらく無言で耳を傾け、ため息をついた。 「…オオゴトにしてんのはどっちや?…これが逆やったら…アンタ黙ってんのか?」 丁寧に話していた多田が、急に言葉を変えた。 凛には極力見せない様にしていた、多田の怒りが見えた。 背中がヒヤリとして、凛は思わず多田の腕に触れた。 けれど、多田は凛に視線を向けないままでさらに続けた。 「…形だけ整えて…腹ん中なんも変わらへんのに何が謝罪や……別に、俺は辞めてもかまへんで?…そのかわり、相応の責任取らせるよ?あの女も…アンタも」 声のボリュームは小さいのに、だからこそ怖かった。 胸の内の怒りが奥底でフツフツと音を立てているのがわかるから。 「…自分の女を護ってやりたい気持ちはわからんでもない…せやけど、やり方が違うやろ?…正してやる事も出来んと…なんの為に一緒にいてんの?」 とにかく、と多田は言葉を切った。 「貴方が今からアレを捕まえて、話して聞かせる間…今晩だけ我慢します…明日以降は、俺もこの人を護らなあかん…もう黙ってへんと思て下さい……頼みますよ」 それを最後に多田は通話を終了し、ぽんとカウンターに携帯を置いた。 「凛さんの携帯…二、三時間電源落としとこか…ゆっくり、晩飯たべよ…な?」 多田の腕に触れていた凛の手を取り、柔らかな仕草で引き寄せた多田は、凛をすっぽり抱きしめた。 「汚ったない言葉聞かせてごめん…怖かったな…」 凛は何度も首を振った。 「…ごめんなさい、出なきゃよかった…また、匡平さんに迷惑かけて」 「…なんで、もとは俺が原因やんか…ごめんな…」 呼び出し音が鳴りやんで、部屋が静かになった。 多田は手を伸ばして、電源を落とした。 「…美味そうやな…凛さん、卵巻いて…腹減った」 多田が優しい目で凛にオムライスを強請った。 凛も微笑んでコンロに火をつける。 島崎が大人しく反省するのは難しい様に思えたけれど、今は取り敢えず部長の動きを待つしかない。 不安はあったけれど、多田も凛もそれとは違う話しをしながら食事をした。 大きなオムライスを美味いと微笑んでくれた多田を見ながら、凛も心を決める。 最悪、店を辞めよう。 多田が会社を辞めるくらいなら、凛が辞めればいい。 凛を護ろうとしてくれる多田を、凛も同じだけ大切に思っている。 多田もいつもと変わらない雰囲気できっと、明日の凛を心配しているのだろう。 どう動くのが最善なのか、凛も微笑みながらずっと考えていた。
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