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多田は食事と後片付けを終えると、ビーズクッションに凛を座らせ、その大きな身体で後ろから凛をクッションごと抱える様にしてパソコンを開いた。
「…クリスマス、何欲しい?」
「え、クリスマス?」
そうだ、クリスマスはもう来週だった。
島崎の件で、確かに視界に入っているはずのクリスマス仕様の街並みが思考からすり抜けていた。
やばい、多田に何も用意していないっ。
「…俺、そうゆうの…疎いから」
疎いより、頭からすっぽ抜けてたほうが問題ですよねーと、頭の中で焦る凛。
「も、すっっごい色々…用意してもらってるから!もう何も要らないですっ」
若干必死過ぎるくらいに、凛が首を振り多田を振り返る。
「いや…それと、これは…ちゃうよ」
「じゃあ…じゃあっ!匡平さんが先に何か言って下さいっ」
やばい、リサーチもまだだったと、強すぎる眼力で多田を見つめる。
多分若干引いている多田の片眉が上がる。
あ、これ困ってる顔だ。
「………ハンバーグ、食べたい」
「承知!作りますともっ、でもそれとプレゼントは別です!」
「………」
多田の目が泳ぐ。
「………」
二人で違う意味で焦りながら、しばらくの沈黙。
「……じゃあ…お願いが、ある」
「はいっ、どうぞ!」
キラキラと瞳を輝かせた凛に、多田は少し迷った様に押し黙った。
「何でもいいですよー、私インドアで自分にお金使わないので、どんとこーいです」
いや、と多田が顎を撫ぜて俯いた。
「…嫌やったや…諦める、もちろん」
「?」
多田がそろりと手を伸ばし、覆い被さる。
凛は自然と顔を前に戻す形になって、背中からゆったり抱き込まれた。
「…あの、な?」
「…はい」
耳元にかかる多田の息がくすぐったい。
「今回の件が…落ち着いても…ここにおって欲しい…」
…落ち着いて、自分のマンションに戻ったらきっと凄く寂しいだろうと思っていた。
二人でご飯を食べると美味しい。
眠るまでのなんて事ない会話も。
包まれて眠る、安心するベッドも。
自分のマンションに帰れば無くなるんだと、もう何度も考えた。
「…いい、の?」
「…うん?」
「ずっと居て、いいの?」
「うん、居て」
じゃあ居る。と答えた凛が腹に回った多田の腕に触れた。
「じゃあ私、キーケースが欲しい」
「キーケース…?」
凛は今、キャラクターもののキーホルダーで事足りていた。
「匡平さんのと、私のマンションのと、店のロッカーのと…3つ並べて持ってられるキーケース。…欲しいです」
多田が頷いて、凛の耳の縁を唇でなぞった。
ふるんと震えた凛を逃がさない様に腕のなかに閉じ込めた多田が、頬に、首筋に唇で触れていく。
「…匡平さん」
「…ん」
「今日は、ゆっくり、して」
ちゃんと、匡平さんを受け止めたいのと言った凛の声に、多田は一瞬唇を止めて。
ふ、と息をついて鼻先を首筋に押し付けた。
「…そんなん…充分やった…気にしてたん?」
頷いた凛を抱き上げて、多田はゆっくり寝室のドアを開けた。
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『暑さと喧嘩して、負けました!弥子軽い熱中症でダウン中です…更新ちびちびになりそうです』
…こんな時、書きためないタイプの自分を反省するんですよねー…。
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