護る者と、護られる者。

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早く眠ったからか、多田の目覚ましより早く目が覚めた。 なるべく音を立てずに片付けとお弁当を仕上げて。 もうそろそろ多田の目覚ましが鳴るなと思った。 カーテンを開けて、早くから入れた暖房の部屋の空気を少しだけ入れ替えよう。 暑がりな多田は、起き抜けで気持ち悪いかもしれない。 そう思ってカーテンを開けて、ドキリとした。 この部屋は3階で。 窓の先にはそれほど広くない道があって。 そこに、島崎が立っていた。 早朝だと言うことや、何故この部屋を見上げているのかと言うことより、凛と目が合ったであろう瞬間の …異様に明るい笑顔に心臓が嫌な音を立てた。 カーテンを握ったままの手に、一瞬で嫌な汗が滲んだ。 「…っ」 多田を起こさなくては。 よかった。 窓を開けようとして。 気付かないでそのまま多田が出勤したら、島崎と鉢合わせていた。 ゆっくりカーテンから手を離して。 何でか上手く動かない足で後ずさる様に窓から離れた。 島崎が視界から外れた途端に寝室に飛び込んだ。 ベッドで眠る多田の肩に触れて、揺さぶる。 「匡平さん、起きて」 ぱちりと多田の目が開いた。 硬い凛の声に反応して、多田が咄嗟に肩に触れていた凛の手を取った。 凛の湿った指の冷たさに、多田の目が一瞬で覚醒した。 「そと、外の道に…島崎さんが」 むくりと多田が身体を起こして、見えない島崎の立つ方向に目をやってゆっくり凛を引き寄せた。 「…いい匂いしてんな、弁当…作ってくれたん?」 いや、外に島崎がと思ったけれど。 抱き寄せられた腕の中で頷いた。 「……あのアホ…やらかしよったなぁ…」 ゆったりとした声で、多田がそう呟いて。 どうしたらいいか考えが巡らない凛の背中をゆっくり数回撫ぜた。 「凛さん…どっちにする?」 「…え?」 少しも慌てていない多田が、じっと凛の目を見つめてゆっくり聞いた。 「俺が今から、アレを捕まえてあの男に引き渡すのと…何の加勢もせぇへん警察に電話して、とりあえずあっこからアレをどかすのと…どっちがいい?」 多田の示した選択肢はどちらにしてもあそこから島崎は居なくなる。 その違いを、多田は続けて話してくれた。 「あの男に引渡したら、多分また来るやろう…警察にアレを退かしてもらって…朝イチで凛さんとこの社長に連絡する方が凛さんを護れると思う」 せやけど、と多田は言葉を切った。 「…そしたら俺は、凛さんとの事を話して…アレと、もしかしたらあの男を排除する事になるかもしれん…」 うん、と凛は理解していると頷いて続きを待った。 「…そしたら、今日明日の安全は護れても…働いてる店を知られてる凛さんの危険は…無くならん」 逆恨みに拍車がかかるかもしれないと言う意味だ。 「引越して…仕事、変えなアカンかもしれん…どうする?」 仕事を辞めることは構わない。 だけど、それは多田も同じでは無いのか。 多田が仕事を続けたとしても、恨みを買うのは同じなのでは無いのか。
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