護る者と、護られる者。

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コートとバックを手に、リビングから廊下に続くドアを開けて冷えた廊下に脚を出した所で、 「あかん、待って」 と、多田が凛の腕を掴んだ。 その、起き抜けの温かい温度に泣きそうになって唇を噛み締める。 「…島崎さんは、私がちゃんと説明して連れて離れるから」 ぐ、と初めての強さで凛の腕を引いた。 彼が力を込めれば、簡単にその胸に戻ってしまう。 「…あかん…て言うてるやろ…」 ぎゅっと胸に押し付けられた多田の鼓動は、初めて聞く速さで耳に届いた。 掠れた、疲れた様な囁きが耳に吹き込まれた。 「…どこでも着いてくるって、言うたやんか…」 泣くなと、息を詰めて。 凛は多田の背中に回せない手を固く握りしめた。 きっと凛の考えなんて想像出来てしまっている多田が、諭すように甘やかす様に呟いた。 「…あの店が面倒くさいなら…何もせんと、ここにおったらいい…二人分、俺が稼げは済む話しや…アレも、あの男も…誰も居らんところで…待っててや」 うう、と凛が呻いて。 身体が震え出す。 怖くて、多田が傷付けられる事が怖くて。 そんなんじゃないよ、自分の安全なんてどうでもいいんだよ。 「…俺の仕事も…辞めて他を探せば済む…凛さんがそばにおるんなら…もう運び屋なんてせんでもええし…」 初耳の情報に、凛が少しだけ顔を上げた。 多田は、どこか痛めて血でも流して居るような苦しげな目をして凛を見下ろしていた。 「…勘弁して、凛さん…こんな事で離せるくらいなら…まっさらな凛さん汚してへん…」 どんな時でも、最終決断を凛に託す多田が雄弁に語り…決して譲らない目で凛を捉えて離さない。 「どこでも連れていく…北でも南でも凛さんの好きな土地に…頼むから…頷いて…」 頷くまで離したりしないと、腕が力を込める。 不器用な熊さんが、外の島崎なんて気にもとめずに凛だけを視界に入れて、切なげに目を細めた。 多田が昨日言った引っ越すは、ほんの一駅、二駅の話かと思っていた。 それは事と次第によっては、島を跨ぐ気もあったのかと、今更気付く。 「無理や…俺は…凛さんを、離されへん…」 全部、これまでの全部を変えても離さないと多田が凛に返答を強請る。 島崎が簡単に姿を現さない場所に二人で。 凛だって、多田と二人ならどこでもやって行ける。 やっと、大きな多田の背中に凛の腕が回った。
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