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 にゅっ。  突然、右の足首をつかまれた。  茂二(しげじ)はびっくりして、しりもちをついた。  足のほうに目を向ける。  そのときになって初めて気がついたが、あたりが真っ暗で、まったく見えないのだった。  茂二は、手をふりほどこうと、足踏(あしぶ)みするように右足を何度もふった。  それでも足首はつかまれたままだ。 「ひいっ」  思わず声が出る。  左足のかかとで、その手を()とばそうとした。  なんだか、蹴った、という確かな感触がわかない。  茂二はお尻と手を使って、あとじさろうとあがいた。  だが、その手は執拗(しつよう)に茂二の足首をつかみ、逃すまいとする。  しばらくもがいているうちに、足元がぼんやりと明るんできた。  足首をつかんでいる手が見えた。若い男の手、という気がした。  やがて、手からつながる腕が見えてきて、その本人の姿まで、ぼう、と闇のなかに浮かびあがる。 「あっ」  茂二は短い叫び声をあげた。  その手の主が、兄の正一(しょういち)だったからだ。  正一は白い浴衣(ゆかた)を着て、恐ろしい目つきで茂二をにらんでいる。
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