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 彼女と付き合い始めてから数年が経っている。人生最良のパートナーに出会えたと有頂天になった時期もあるが、最近は状況が違った。  ほんの些細なことをキッカケとした彼女と僕の険悪な雰囲気は、日を追うごとに悪化の一途を辿ってきており、それぞれが抱えた不満をぶつけ合うことにも疲れ果て、週末のデートはおろか、連絡を取り合うことすらできない関係にまで至っている。  謝罪の言葉を口にするには、互いに譲れない言い分が有り過ぎた。  久しぶりの連絡が日本を離れるという内容であったことには驚かされたが、気分屋で行動力のある彼女らしくも思える。  語学が堪能な彼女は職場でも活躍の場が多いらしく、海外赴任の打診を受ける度にそんなつもりはないのだと断ってきたそうだ。だが、満更でもなさそうに話していた彼女の本音までは分からずじまいだった。  僕にとってみれば遠い世界の話で、互いの置かれた環境を考えると、彼女が決断した途端に僕等の関係も終わりを迎えるのだろうと半ば諦めていたつもりだ。  だが、こんな形で離ればなれになるのだとは考えていなかった。  空港までの電車は、豪雨の影響で速度を落として走っている。運転士でもなくただの乗客である僕は、電車の速度を上げたりもできず、じりじりとしながら窓の外を眺めているだけだ。出発の予定時刻にはまだ余裕があるが、彼女が早めに保安検査場のゲートを通過していれば顔を合わせることも叶わない。だが、行かずに後悔するよりはましだった。   電話を1本かければ済む話だということは分かっている。彼女に一言、話があるから待っていて欲しいと伝えれば良いだけだ。雨とは違って、すんなり願いを聞き入れて貰えるかも知れない。けれど、その電話でこれまでの日々をあっさり清算されてしまいそうなのが怖かった。そうなれば、来た道を引き返すほかなくなる。  車窓からの町並みには、相変わらず強い風雨が吹き付けている。せめて追い風であってくれと願うが、ガラスに残される水滴は前方から後方へと流れていくばかりだ。それが電車の速度によるものだとしても、どす黒い雨雲が向かい風を吹かせて、電車の進行を邪魔しているようにしか思えなかった。
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