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「安藤朝陽の迎えに来ました、朝陽の兄で──」
「うるさぁい!桔平なんか、にいちゃんじゃないもん!」
保育園の年中さん。フロアのど真ん中にあるゆり組の前でそう叫ばれ、俺は周囲からの視線を集めた。
「こら朝陽くん、お兄ちゃんに向かってそんなこと言わないの。学校帰り、友達とも遊ばずにお迎え来てくれたんだよ?」
「でもこいつ、おれのにいちゃんじゃないもん!いやだ!」
保育士の宥めも通用せず、朝陽は俺を指さし断固拒否。クラスの子供や母達が、ひそひそ何かを言っていた。
「ごめんなさいね、朝陽くんのお兄さん。すぐ支度させますから」
「あ、いえ……」
「ほら朝陽くん。そのおもちゃ、先生にちょうだいな」
手に抱えていたパトカーを、半ば強引に奪われ朝陽は激怒。
「まだかえんないってばあ!」
「もう帰るの。お兄ちゃんをあまり待たせちゃだめ」
「だから、にいちゃんじゃないし!」
保育士に手をひかれ、帽子やリュックを小さな体にセットされ。
「それじゃあまた明日ね朝陽くん。さようなら」
廊下へぽんっと出されれば、朝陽は俺を無視して玄関に駆けた。
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