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やっぱりバレてるな。そして俺の反応見て心の中で馬鹿にしてる。…気にするな、俺。
とりあえず平常心を保ったフリをして、話を戻すように質問を返してみた。
「いつもあの時間に起きてるのか?」
「…あぁ。いつもあの時間帯」
「へぇ、早起きなんだな」
すると右隣に居た芝崎が持っているスクールバッグを右側に移動するのが視界に入る。その時に芝崎の左腕に赤いモノが付着しているのが見えた。気になって横を向いて確認すると、正確には掠ったような傷から血が出ていたのだ。
「芝崎!血!」
「は?……あ、本当だ。いつやったかな」
あまりにも痛そうな傷にギョッと目を張った俺に対して、「痛みすら感じなかった」と、気にも留めない様子で左腕の傷を見ている。
痛みは感じないと言うが、見るからに痛そうだ。急いで鞄の中から常に持ち歩いていた絆創膏を取り出して芝崎に渡した。
「絆創膏持ち歩いてんの?」
まさか絆創膏を持ち歩いていると思わなかったのか、面食らった様子で絆創膏を見つめていた。
「まぁ…色々あって」
「色々あったって何?」
「いや、大した事じゃないよ。とにかく血も滲み出てるし、ばい菌入ったらまずい。本当なら洗い流して貼った方がいいんだろうけど…。これから満員電車になるわけだし、人に血付けても良くないし、とりあえず貼っといたら?」
「何があったか教えてくれたら貼る」
「へ」
そんな事を言われるとは思わず、ポカンとした顔で芝崎を見据える。しかも昔あった俺の小っ恥ずかしい話をしろと。俺が渡さなかったら困るの芝崎では?なんて思うが。
「友達になりたいんだよな?なら俺も倉木の事をもっと知りたい」
ふざけて聞いてる様子もなくジッと俺の話を待ち構える芝崎に困惑する。友達だからって全て話す必要はないと思うし、こんなつまらない話聞いても…でも芝崎にそんな事を言われたら弱るな。
「なに?イジメとかそういう話?」
「いや、そんなんじゃ…笑わない?」
「笑わない」
少し恥ずかしく思いながら聞くが、即答して返ってくる。思わず拍子抜けしてしまうが、あの時の事を思い返しながら話し始めた。
「中三の時の塾帰りに転んで…」
「転んだ?誰かに引っ掛けられた?」
「いや、自分の足に引っ掛かって」
芝崎は重い話をされると思ったのか、明らかに芝崎の口元に力が入ったのが分かった。
「…」
「…」
「今笑わないって言ったのは幻聴だった?」
「…別に笑ってねぇって。で?」
まさか初っ端から間抜けな入りだと思わなかったんだろうな。どう見ても肩を小刻みに震わせて笑いを堪えようとしている芝崎に恥ずかしさが勝って顔が熱くなる。芝崎の続きを話せと言わんばかりの視線に渋々話を続けた。
「その時に腕と足を擦り剥いて、最初は恥ずかしさで転んだ場所から逃げたんだけど、落ち着いたら痛みが襲ってきて…体育着を着てたからジャージを脱いだら案の定、血だらけで。ついでに擦り剥いた膝の傷は足の甲まで血がダラダラ流れてて」
「聞いてるだけで痛そうな話」
「うん。痛かった。とりあえず血を止めたかったけど、何も持ってないんだよ。しかも余計なところ触って体中に自分の血がついたし。次は痛さよりも止まらない血にビビってた。後から気付いたけど、深く抉ってたみたい」
「…最悪だな」
流石の芝崎も俺の話に同情するように怪訝な表情をしていた。
「母親に叱られるかもとか、明後日の体育の授業どうしようとか、しかも家まで距離あるし、近くで殺人事件あったら完全に俺が犯人だとか、色んな心配が過ぎって」
「……ふ、…っ」
当時の俺を想像したのか、横で芝崎の堪え切れない笑い声が漏れていた。
もう堪える必要ないだろ。笑え笑え。
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