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「倉木は俺の事を本気で心配してくれるよな」
「それは…そうだろ。芝崎がこんな絆創膏貼ってたら寄ってたかって聞いてくると思う。芝崎が傷付いてる所なんて…」
そこまで言いかけて、口を噤む。
“好きな人が傷付いてたら誰だって心配すると思う。だから傷付いて欲しくない。”
全て言い終えたら、そういうニュアンスに聞こえてしまうんじゃないかと思ってしまったからだ。
「俺が傷付いたら、なに?」
言葉の続きを待っている芝崎の視線に穴が開きそうだった。絆創膏を貼る作業の所為で芝崎との距離が近くなってしまい、無意識に近寄ってしまった距離を軽く離す。
「誰だって心配するだろ。“友達”になる予定の俺だって同じだ」
「さっきは俺が嘘吐きだったけど、今は倉木が嘘吐きの番?」
芝崎の少し低くなった声と共に、少し離した距離を埋めるように芝崎に腕を掴まれて戻された。
そんな芝崎に驚いて目を丸くするが、芝崎は気に留めずに話し続けた。
「絆創膏貼る手が震えるのも、俺が傷付いて欲しくないのも、俺を恋愛感情で見てるからだろ?」
芝崎の掴む手の圧が少し強くて、昨日と同じように全身が強張り、確信を追求してくる芝崎に眉尻を下げて見上げた。
すると小声で話していたものの、向かえに座っていた人達に声が届いたのか、痛いくらいの視線を感じた。電車にいる事を忘れていたわけではないが、遠慮なく聞いてきた芝崎に対して、羞恥で顔に熱が溜まっていく。
「…まだ言ってるのか。そんなんじゃないって。後、シー」
「もっと小声で」と言う意味を込めて、掴まれてない手の人差し指を自分の口元に寄せる。芝崎は周りを一瞬だけ見渡すが、いつものように澄ましたような顔付きだった。すると、掴んでいた手首を掴んだまま、俺の耳元に顔を寄せてきて、
「俺のこと好きなくせに」
俺にしか聞こえないくらい囁くような芝崎の声にゾクッとした。
こんなに近くで芝崎の声を聞くのは初めてだった。右耳の全てが芝崎に占領され、耳から全身へと得体の知れないものが走り去るような感覚。自覚はしていたが、この囁きの所為で芝崎の事を本当に好きなんだと思わされた。俺は咄嗟に芝崎の肩を押し返した。
「…それでも俺は好きだって言わない」
「は?…なんで?」
「意地張ってるとか強がってるとかじゃなくて、俺、芝崎のこと本気で好きだから。…だから、言わない」
本人を目の前にすると、少しぎこちなく言い放ってしまった。そして好きだと言っているようなものだ。それでも嘘ではない。向こうが俺なんかに惚れるわけないと分かってるし、弄んでいるなんて明白だからこそ、この気持ちは伝えない。
そして、俺の発言に芝崎の目は大きく見開いていた。
「そういう事だから。やっぱりこういう感じで会うの無しにしよう。…憧れてるって、友達になりたいって嘘吐いてごめん。今まで通りの俺と芝崎の距離に戻れるようにするから」
俺の気持ちを晒した事で、芝崎は弄ぶ楽しさが減少して、離れていくだろうと思った。すると、芝崎の表情が次第に曇っていき、最後には睨むように目を細めてきた。
「は?なに勝手に決めてんの?」
なんだ楽しくねぇ。もう終わりか。…なんて言葉が降り注ぐと思っていたが、予想していたものとは真逆の反応で、腹立たしさがいつになく表情となって表れていた。
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