2:トモダチやめる

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「芝崎、今の言葉聞こえてたか?」 「ちゃんと聞こえた。お前が俺の事をどう思ってたか分かったけど、それで友達にならないのは何か違うだろ。つか意味分からねぇ。好きなら好きって言えばいいのに」 し、芝崎にお前って言われてしまった。しかも何かキレてるし。なんで?なにが違うの?それより本当に友達になるつもりだったのか?それに俺が好きって言っても、何の意味もないだろ?……あぁ、もしかして、知った上でも俺の気持ちを弄ぶつもりか?もしそうだとしたら、想像していたよりも性格悪いぞ。 「…やだよ。俺は友達として仲良くなれない。むしろ可能性が無いって分かってるから、これ以上芝崎の事を好きになりたくないんだよ。嫌いになれればいいと思ってる。いや…無関心になりたい」 「じゃあ、俺だって嫌だ」 まさか子供のように嫌だと言い返されると思わなくて、また呆気に取られたように見つめ返した。 「まだ倉木のこと知れてないし。ただ、今日話して分かった事は、倉木って意外と喋るんだなって思った。俺は楽しかったよ。もっと倉木のこと知りたいんだけど」 「え…た、楽しかったのなら…良かった」 自分を知りたいと真っ直ぐな目線で訴える芝崎に動揺してしまう。俺も俺で「良かった」じゃないんだよ。安心するな。何も良くない。 すると、芝崎の微笑するような声が聞こえたと思えば、右手が何かに握り込まれたような感触で目を見開く。芝崎は口元に笑みを浮かべながら、俺の手を握ってきたのだ。驚きで手に緊張が走り、手を離そうとしても芝崎の手は一切離れない。 「な、なん…なんの真似?」 芝崎は掴んできた手を引き寄せると、もう一度耳元で囁いてきた。 「そんなんで無関心になれるとは思えないけど。俺の言葉に一喜一憂して、今自分がどんな顔して俺を見てるか分かってる?…なら見せろよ。俺の事を嫌いって感じの倉木を。俺の事を嫌いになれるもんなら、やってみせて」 そう言うと、耳元から離れる瞬間に頰に唇を押し当ててきたのが一瞬の事でも分かった。それは俺に対し、わざとらしく意識させるような行為をしているようにも見える。 耳元から離れて見えた芝崎は挑戦的で自信に満ちたような表情で、キスをされた頰の場所から一気に熱くなった。 向かえにいた人達にはハッキリと見えてしまった光景。向こうも心無しか顔を赤らめているようにも見える。 どんな顔で芝崎を見てるか分からないが、赤面してようが、芝崎に負けじと睨みながら片手でもう一度押し返した。 「分かってるよ。こんなの口だけだ。けど、そんな俺のことなんて放っておけばいいだろ。弄ぶなら他の奴にしたらいい。そもそも人を弄ぶこと自体間違ってるからな!」 俺はキスをされた頰を手の甲でわざとらしくゴシゴシと強く拭き取ると、芝崎はギョッと目を丸くして信じられないものを見るように固まっていた。 「こんな性悪なキスされても嫌いになれないんだよ。けど…それでも…芝崎のこと勝手に好きかもしれないけど…芝崎とは今後関わらない!友達やめる!俺の事は空気だと思ってくれていいから!じゃ!」 「…っ…おい!」 隙を見て手を振り払うと、逃げるように別の車両へ向かう。追いかけてきそうな気配を感じたが、タイミングよく四駅目に着いてしまった。 芝崎の言う通り、駅のホームには自分と同じ制服の人達がちらほら見えていた。 友達やめる、なんて小学生振りに言った台詞だ。 隣の車両に逃げ込んでチラッと振り向く。そこには人が流れ込んで芝崎の姿は見えなかった。
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