3:毒される

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3:毒される

♢♢♢♢♢♢♢ どの教室にもクーラーが設備されている。教室に入ると、一番乗りのクラスメイトが冷房を付ける習慣は誰かが言葉にしてたわけではない。この暑さに耐えられないから、自然と行なっている事だった。ついでに教室内が冷えるまで扇風機も付けるほど耐え難い暑さだ。 時間が経つにつれて、猛暑を実感するこの時期の暑さを癒してくれるのは、教室のクーラーのみ。 火照った顔で教室に入ってくるクラスメイトも、三十分も経てば頰の熱が引いていくのが分かる。 けど、今日の俺は三十分が経たなくても、顔に熱を持ったままだと分かっていた。正確には夏の暑さは引いていても、芝崎によって与えられた熱は引く気配が無い。寧ろ、数分前に起きた出来事の所為で前よりも過熱してる気がする。 地獄のビックウェーブに自ら乗り込んだ俺は、想像していたよりも乗り心地が悪くて…逃げた。何が敢えて弄ばれてみる?だ。相手が飽きる前に俺が耐えられなかった。本当に芝崎の事が好きだから無理だったという結論だ。ラッキーセブンどころか、アンラッキーセブンだったってわけだ。 これからどうしよう。しかも何故か芝崎怒ってたよな。好きだと自白してしまったし、もしかすると今日中に芝崎の事が好きな奴…みたいな感じで、俺の名前が出回ってたら。…いや、その方がいいのかも。俺は芝崎に嫌悪が生まれて、嫌いになれるきっかけになるはずだ。それでも同じクラスなのだから、絶対に顔を合わせる羽目になるわけだが。 電車から降りた途端、早歩きでホームを後にしたお陰で鉢合わせしないで済んだ。席について、一息つく。辺りを見渡すと、芝崎はまだ来てないが、どうせ鉢合わせるんだ。 心も身体も落ち着きのないままだ。俺は自然と右頬に手を伸ばす。芝崎に耳元で囁かれた後、頰にキスをされた事を思い出し、また身体中が興奮するように騒ぎ出した。 俺、頬にキスされたんだ。あの芝崎に。 あの時は勢いで拭いてしまったものの、嬉しさが無いわけない。寧ろ、これこそラッキー…クソー…。下心が隠しきれない。けど、これも良い思い出になった。うん。これで良いんだ。好きな人に頬にキスして貰っただけでも…。 そう思っていると、廊下の奥から話し声と共に何人かの足音が聞こえ、その音にドキッと胸が鳴った。すぐに教室の扉が開くと、そこに居たのは芝崎と黒羽と他のクラスメイトの人達。芝崎の周りには、芝崎達と話そうと人が集まっているイメージだ。 すると、教室に入ってきた芝崎は真っ先に俺の方へと視線を向けたのが分かった。 目線だけを此方に向けた芝崎とバチッと目が合うが、俺は咄嗟に視線を逸らした。 遂に芝崎が教室に入ってきた。クラスが一気に明るい雰囲気になり、芝崎達に注目がいく。何故か芝崎から目を逸らしても、痛いほどの視線を感じるのは気のせいだろうか。 そして芝崎が席に着いたような気がして目を向ける。俺の席は後部付近。芝崎は中央辺りの席なので、自分に背中を向けている事に胸を撫で下ろす。 他のクラスの女子が分かりやすいほど恋してますと顔に書いた状態で芝崎にベッタリで話していた。 「聖君って、いつも良い匂いするよね」 「そうか?香水とか付けてないけど」 「うん。でも良い匂いする。私、この匂い大好き」 「ありがと」 いつ見ても芝崎は過剰に愛想を振りまくような素振りも無い。言われ慣れているのか、軽く笑みを浮かべながら淡々と話しているイメージ。それでも女子は芝崎にメロメロな様子だ。 だからこそ、電車の中で責め立てるような言い草には驚いてしまった。 「おはよー!…って、あれ?どうしたの、怪我?」 すると、クラスの中で一番陽気で明るい女子の鈴宮さんが教室に入ってきて早々、芝崎の側に歩み寄る。そして、すぐさま芝崎の腕の絆創膏に気付いて指摘してきたのだ。
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