3:毒される

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鈴宮さんの言葉に周りにいた人達が一気に反応し、ギクッとして身が縮む。隣にいた黒羽が覗き込むように芝崎の腕を確かめた。 「怪我してたの気付かなかったわ。いつの間に?」 「ついさっき」 そう言いながら芝崎が絆創膏を指先で撫でるように触れていた。芝崎の背後しか見えないはずだが、ほくそ笑んだ時のような口角を浮かべているんじゃないかと思わせるような声だった。 思わず眉間に皺を寄せていると、鈴宮さんは不貞腐れたように頬を膨らませた。 「え〜、芝崎君が怪我してる時に絆創膏を急いで貼れる女になりたかった〜。今度は私に言ってね?」 「絆創膏持ってんの?」 「今は持ってないけど、今度買ってくるよ!」 「はは、わざわざ?いいよ。貼ってくれた人がいっぱい持ってたから、その人からまた貰う」 断りを入れていた芝崎の声に、口をあんぐりと開けてしまった。 紛れもなく俺では? 衝撃で芝崎の背中を凝視する。盗み聞きでこんなに衝撃受けたのは初めてだ。絆創膏いっぱい持ってて、その腕の絆創膏貼ったのって、俺だろ!?もう関わらないって言ったのに。…いや、口だけかもしれない。そう願いたい。それにあんな言い方したら女子達が反応するんじゃ…。 「えっ、誰?誰誰誰?」 案の定、鈴宮さんより先に他のクラスの女子が怪訝な表情で覗き込んでいた。 「秘密」 芝崎は女子に顔を向けると、ニヤリとした笑みを浮かべているのが横顔だけで分かった。そんな言い草に周りが、えー!なにそれ!と、更に興味を持つような反応をしていて、俺は冷や汗が滲む。 そんな意味深な言い方するなよ。でもここで俺の名前を言われても心臓を吐き出すかも。 そんな事を考えながら集団を見つめていると、黒羽が俺の視線に気付いて此方へ目を向ける。ドキッとして視線を逸らそうとするが、すぐに黒羽が困惑した表情で笑みを浮かべ、「おはよ」と、口パクで伝えてきたのが分かった。 俺は黒羽の行動に驚いて目を丸くしながら軽く会釈し、すぐに目を逸らす。 え、俺にした?なんで俺に?…もしかして昨日の出来事知ってるとか?そうなると、俺が芝崎の事を好きって知ってるんだよな。うわぁ、最悪だ。どう思ったんだろ…。それより、何故黒羽が申し訳なさそうな顔してたんだ? すると、突然背後から肩に手を置かれた事で、ビクッと身体が跳ねた。 「はよ。…そんな驚くか」 「お、おはよ。ボーッとしてたから吃驚した」 「教室入った時から見えてた。ボーッとしてんなぁと思ってたよ」 そこにはイヤフォンを外しながら話しかけてきた金田(かねだ)の姿。昨日から色々ありすぎて、金田の黒縁眼鏡越しに見える眠そうな瞳に安心感を覚えてしまうほどだった。 「相変わらずだな」 金田の言葉に目を向けると、芝崎達の方を見つめながら嫌味っぽく吐き捨てる。その表情は不愉快だと顰めていた。 そんな金田に苦笑いを浮かべる。話し始めた頃から、芝崎を含めたキラキラした連中が苦手だと言っていた。その中心に居る芝崎という男に惚れたなんて知ったら…たまったもんじゃない。 「はは…賑やかだよなー。…いつも思ってたんだが、金田は何で嫌ってんの?」 いつもなら流してきた発言も思い切って理由を聞いてみると、金田の眠たそうで緩い目付きが芝崎達から俺を捉えた。 「んー、そうだな。食わず嫌い?」 「食わず嫌い?」 「別に何かされた訳じゃねぇんだけど。自分達が一番みたいなオーラが拭えないっていうか。あぁいう奴ら見てると、一度で良いからカースト上位から蹴り落としてドン底の景色を見てる顔を見たくなる」 まるで親でも殺されたのかと思わせるほどの憎悪を含んだ笑みに喉がヒクッと引きつった。 分かってはいたが、金田はたまに歪んたような性格を登場させる事がある。
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