3:毒される

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だからこそ金田と一緒につるんでいるから芝崎に友達になろうと言われた時には息が詰まった。あの時は密会という形になって良かった。 食わず嫌いと言っても、芝崎達みたいな連中と金田は相容れないような気がする。金田も金田で偏見な気もするが、俺も芝崎の中身の事は知らないまま好きになったし。同じようなものだ。金田は逆だけど。 すると、自分の席に腰掛けている俺に持たれかかってきたので、「重いって」と、言いながら押し返す。 「それに比べて倉木は何か落ち着く。のほほんとした無害そう顔してるし。可もなく不可もなく」 「のほほんとした無害そうな顔って…ゆるキャラ扱いか?しかも褒めてるのか、貶してるのか」 「どっちも。下手したら良いように使われそうだよなって話」 金田の発言にギクッとする。まさに今置かれている状況なんじゃないかと思った。動揺を隠すように、不貞腐れたフリをした。 「なんだそれ。喧嘩売ってるのか。要するに金田は俺を使ってると?」 「いいな。喧嘩する?」 「…一度言ってみたかっただけ。金田に口でも力でも勝てる気がしない。プライドも骨もへし折られそう。丑三つ時に人を呪う為の知識とか豊富そう」 「恐ろしいな。骨は折った事は無いよ」 散々な言い様にも金田は「倉木から見て僕はどういうイメージだよ」と笑っている。 “骨は”って。それ以外はあるのか…?とは流石に聞けなかったが、金田は変なスイッチ入ったらヤバイと思ってるのはマジだ。悪い奴では無いんだけどなぁ。 「そうだ、これ買ってきたから。クラブラの対戦付き合って」 金田は鞄から新品のゲームのソフトを取り出すと、俺に渡してきた。目を見張るようにソフトを見た後、金田に目を向ける。 「嘘だろ。買ったのか?次の週末に買おうと思ってたんだけど」 金田は暇さえあればゲームをするほどのゲーム好き。今だって鞄の奥にゲーム本体を持っているのも分かってる。俺もゲームはするけど、金田ほどではない。そして金田が差し出してきたクラブラは巷で人気の対戦アクションゲームの事。通信機能で協力プレイも可能で、対戦は世界中の誰とでもランダムで通信が出来る。 金田がハマりまくっていて、ソフトを買ってなかった俺を何度も買うように促されていた。…が、痺れを切らしてしまったらしい。 「いつまで経っても買う気配無かったから、あげる」 「あげるって!なら、金払うよ。えっと、確か八千円くらいだよな…」 そう言いながら鞄に入っている財布にいくら入っているか確認しようとしたが、その手を金田に掴まれて阻止された。 「いらないから、絶対対戦付き合って」 「どんだけ対戦したいんだよ…。でも本当に買おうと思ってたから金は払う」 「なら、僕からの誕生日プレゼントって事で」 「俺の誕生日九月なんだけど…」 「前倒しって事で。でも絶対付き合えよ」 早急に対戦したいと目で訴えてくる金田に観念し、「悪いな…有難う」と、受け取る事にした。 と言っても、金田はゲームセンスが抜群に良くて、俺がクラブラに慣れてきたとしても勝てる自信は無い。それに考えてみたら八千円も財布に入ってなかったわ。恥ずかしい思いをするところだった。 「間に合ったー!皆おはよー!」 ガラッと音を立てて後方の教室のドアが勢いよく開く。走り疲れて肩を揺らしながらも、大声で挨拶をする谷川(たにかわ)の姿に全員の視線が向いた。時間を見ると、ホームルーム開始時間五分前。気が付けば芝崎達を囲んでいた他のクラスメイトの女子の姿は無かった。 すると、谷川が何かを見渡していると思うと、俺の方へ視線を向けてきて、顔を歪めながら「倉木!」と、俺の名前を呼びながら近付いてきたのだ。
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