3:毒される

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俺は突然の事で緊張で固まってると、隣にいた金田も怪訝な表情で俺と谷川を見比べていた。目の前に谷川が来ると、俺の両肩をガシッと掴んできた。 「倉木〜!昨日は本当にごめんな!悪気は無かったんだよ〜。俺が聖にあんな質問するから!」 「あー……それか。もういいよ。気にしてないから。冗談だって分かってるから」 谷川は申し訳なさそうな顔で謝罪してくるのを宥める。昨日の放課後の事が薄れるくらい芝崎にばっか意識いってた…。それよりも一体何があったのかと言いたげな周りの視線が痛い。 「昨日何かあったの?」 その視線の一人の金田が俺に伺ってきた。言うのに少し躊躇してしまう。もう終わった事だし深く掘り下げたくないし、芝崎達がクラスメイトの男子で誰がいける?なんて質問してたって金田が知ったら…更に嫌悪が深まる気がする。 「本当になんでもないから!ただ谷川達が冗談言ってるのを聞いてしまっただけで「倉木の事をイけるかどうかの話してた時に、聖が論外って言ってさ〜」 おい!言うなよ! 俺の言葉を遮り、肩を竦めながら言ってしまった谷川にギョッと目を見開いた。 「論外か。じゃ、僕はその論外の友達だな」 口元は笑っているのに、まるで軽蔑すると言わんばかりに眼鏡の奥の目が細まった気がして、俺は頭を抱えたくなった。 「そんなこと言うなって!冗談だよ冗談!」 俺が気にしてないと言ったのを良いように、谷川は満面の笑みを浮かべながら金田の背中をひと叩きしたのだ。 谷川、勘弁してくれ。これ以上金田を刺激するな…! 金田は口を開けば「殺す」と言い出さないか心配で、冷や汗が止まらない。思わず「この話はやめよう!」と、意識をこちらに向けようと必死だった。 「…って、あれ!?倉木ってクラブラしてんの!?」 そんな俺に反応した谷川の目線が此方に向くと、机に置いていたクラブラのソフトを瞠目した様子で手に取った。 「俺は今貰ったばかりだけど、今からする予定で…」 「まじで!?今クラブラにハマってんだよ!弟達としか相手いなくてさー。周り誰もやってねぇの。倉木、相手になってくんない?あ、もしかして金田もやってる感じ?じゃ、フレンドになって!けどな~、俺強すぎて、勝たせてあげれっかなー」 勢いよく話したと思えば、誇らし気な顔を浮かべて、瞬きをしながら言葉を失う。 まさか谷川がこんなにクラブラに入り込んでいるとは。けど、フレンドか。昨日の事を和解したとはいえ、抵抗なく言えるの凄いな。それに俺的には芝崎の友達の谷川とも、あまり関わるのは避けた方が良い気もする。でも上手く断る理由が思い付かない。それに金田は…。 チラッと不安げに金田を見る。きっと上手く断りを入れてくれて、俺はそれに乗るんだと思っていた。殺伐とした感じなのかと思いきや、何故か目を輝かせて谷川を見つめていた。俺は見た事のない金田の姿に面食らった。 「谷川、凄いな。僕弱くてさ…負けるかもしれないけど、相手してくれない?」 更に金田のありえない言葉に、またもや喉の奥が引くついた。 金田…何言ってんだよ?ええ?何を弱い子ぶってんだよ。まさか相手が谷川だから下手に出てあげてるつもりか!? 「マジでー!嬉しすぎる!任せとけって!もしかして金田の師匠になるかもな!はは!」 「僕も嬉しいな。協力プレイだと負けまくって足を引っ張るかもしれないけど…師匠が居れば安心だな」 「やべ!照れる!やる気出てきたわ~。さっそく今日とかどう!?俺ん家に弟達のムイッチが数台あるんだけどさ!」 「いいよ。その代わり、倉木も一緒なら」 「…え」 俺は衝撃で真意を探るため金田をまじまじと見つめていると、二人で進んでいた話を俺に振られた事に声を零した。因みにムイッチとはクラブラをプレイする為の本体だ。 金田…何故だ?一番関わりたくないと思ってたんじゃないのか?やっぱり相手がカースト上位だからビビッて忖度のつもり? そして俺次第と言いたげな二人の視線に肩を落とした。 「俺も、金田が居るなら」 こう言うしかないだろ…。 すると谷川は弾けるように喜んでいた。どんよりとした気持ちで乗り気じゃないまま軽く金田を睨むと、金田の口端が軽く上がっている事に気付いた。 なんだ?企んでる顔だ。何かやる気…?……ハッ、まさか…まさか! 金田の考えそうな事を勝手に想定する。この笑みはビビッても無いし、忖度なんて無い。もしや…上げて蹴り落とすつもりか?そしてこんなに誇らし気な谷川のプライドもへし折るとか?うわっ…自分で考えて怖くなってきた。やめようよ。平穏に行こうよ…断ろうよ…。関わりたくないんだが。 「何、すげー楽しそうな雰囲気。…俺も混ぜて?」 恐怖で青ざめ始めていくと、この場にもう一人誰かが近寄ってきた。衝撃で近付いてきた事も気付かなかった。 俺は聞き覚えのある声に身体がピシャッと固まる。きっと青ざめているであろう表情のままゆっくりと顔を上げると、昨日と同じように美しすぎる満面の笑みを浮かべている芝崎と目が合った。 おいおいおい、つい数時間前に友達を辞めたばっかりの美形が混ぜてとかほざいているぞ。…これは、もしや、詰んだ?
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