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提案ってなんだよ。ヤベェ、芝崎って意外としぶといかも。そこは引いてくれよ。本当に何考えてるか分からない。俺のこと論外なんだろ?あんな余計なこと言ったのに、嫌じゃないのか?
「学校で突然話し出したら周りが不思議に思うのは目に見えてるから、それだと俺も面倒くさいんだよな。…簡潔的に言うと、俺と密会しよう?」
真正面から見たことないくらい美しい笑顔を向けた芝崎に目を細める。
……おいおいおい、目の前の美形が何か言い出したよ。
「密会って…それは…どうかな。芝崎は俺なんかに時間割くの?」
「時間が無い奴がこんな提案するわけないだろ。それに倉木が言ってきたんだよ?俺と仲良くなりたいんだろ?」
思いの外、芝崎は怪訝な表情で問い詰めてきて縮こまってしまう。
ぐうの音も出ない。そうだよ。仲良くなりたいよ。でも俺だけが恋愛感情で芝崎を見ていて、中途半端に近付けばもっと好きになってしまうかもしれない。それに芝崎の好奇心の目が隠しきれてない。何を考えているんだ?いや、企んでるんだ?の方が近いかもしれない。
「そうだけど…怒ってるんじゃないのか?だって俺が安売りだとか言ったときに明らかに嫌そうな顔してた。その後に言い逃げしたし」
「そんな言葉求めてないとは思ったけど、苛ついてたのは別の理由だから」
あの時の思いを巡らせたのか、一瞬だけ嫌な顔を浮かべた芝崎に、堪らず「ごめん」と、頭を下げて謝罪する。
芝崎って意外と顔に出やすいんだな…。というより、俺のイメージで女子の騒ぎ具合から王子様みたいな奴だと思ってた。そして案外ハッキリと物を言う。新しい発見出来て嬉し……ん?待てよ。喜んでる場合じゃない。別のことで苛ついてたってのは、なんの話だ?
「…芝崎、俺は他にどんな悪いことした?」
頭に浮かんだ疑問が不安へと変わり、この時だけは、しっかりと芝崎の目を見ることができた。
「それは友達になったら教えるよ。まだそこまでの仲じゃないだろ」
そんな俺を芝崎は見据えると、怪しげに口角を上げていて、どこか挑発的にも見えた。俺は一気に緊張が走り、思わず頰が引きつってしまう。
そこまでの仲じゃないって。どんな基準だよ。ていうか、マジで友達になるのか?その為に密会する?夢みたいな話なのに、嬉しくないような複雑な気持ち。
本っ当、俺は…クソ。なんでこんな事をこぼしたんだ。なんか芝崎も企んでいるようにも見えて怖いし。もしかして俺が何考えてるか分からないって言ってたし、興味本位?可能性はあるな。怒っている事に対しての腹いせかもしれない。
俺はこんな見え見えな罠に、敢えて乗るのか?
「…芝崎がいいなら」
あーあ。乗ってしまった。俺が自分で言ってしまった事だけど。それでも雲の上の人というか、神様的な存在の人と、妙な約束を交わしてしまった事が信じ難い。
芝崎が興味本位なら、いつか飽きが来るって目に見えるんだよ。それでも承諾して目の前で満足げに笑っている好きな人の誘いを、俺は簡単に受け入れてしまった。
「これからよろしく。学校で俺らの関係を知られるのは面倒臭いから無し。二人で密会しようとしてることも内緒な。ライムしてる?」
「う、うん」
「じゃ、交換しよう」
芝崎はそう言いながらポケットからスマホを取り出してきて、俺も焦りながらスマホを取り出した。しかし友達追加の方法が分からなくて、ライムを開いたまま狼狽ていると、見兼ねた芝崎がスマホを覗いてきた。
「…っ」
肩がくっつくほど近寄ってきたせいで、余計に気が動転しそうだ。
「ここ押せばQRコード」
横から伸びてきた芝崎の手がスマホを操っている様子が目の前で見える。細長くて綺麗な指と骨張っている白い手の甲、そして耳元で聞こえる声と、近寄らなければ分からない柔軟剤の匂いが纏わりついてきた。
嘘だろ…これは現実か?夢を見てるのか?俺、芝崎と連絡先交換してる…?
俯いてスマホの画面を硬直したまま見つめていると、芝崎が俯いて前髪で隠れた俺の表情を見ようと指で前髪を横に寄せた。
「なに固まってんの?交換しないわけ?」
少し機嫌の悪そうな芝崎の声色に顔を上げると、眩いくらい美しい顔の芝崎と至近距離で目が合った。額に触れた芝崎の指の感触で、これは夢じゃないと我に返る。
あ、俺、死ぬかも。
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