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奇跡
「もう。ほんと、信じらんない、なんでチャペルで数十分も迷子になるわけ? それも、スマホも持たないで!」
「いや、だからほんと、ごめんってば」
愛子はぷりぷり怒っている。
俺は新婦控え室で、何度も何度も謝っていた。
過去にいたのは、数十分だったのだろう。
おなじだけの時間が、こっちの世界でも流れていた。
俺がいなくなったせいで、時間通りに挙式ができなかった。
事情が事情とはいえ、非常に申し訳ないことをした。
たまたまその日は午後の時間が空いていたらしく、式はそこに振り替えてもらえたのだった。助かった……。
部屋には、俺と愛子しかいない。
雨音は、もう聞こえなかった。
「雨、やんだのかな」
「うん。つい、いまさっきね。剛がいないときにやみましたけど」
「……あまおとこるね」
その言葉を、つぶやいた途端。
「……えっ?」
愛子は、ぽかんと俺を見た。
「うそ……その言葉……もしかして。お姉ちゃんの?」
「え?」
今度は、こちらがぽかんとする番だった。
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