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そして、まさかびっくりだ。
中学二年の俺に教えたら唖然とするだろう。
まさか俺が「山猿」と呼ばれていた女子――山岸愛子と結婚するなんて。
「どう?」
新婦控え室に座る愛子は、しかし、とても美しい。
マーメイドラインの純白のウェディングドレスに、百合の生花の髪かざり。
「馬子にも衣装?」
「もう、剛、失礼でしょ!」
冗談冗談、と俺は笑う。
照れ隠しをしてしまった。
山岸透子さんが亡くなった後、なぜか知らないが山岸愛子は俺に接近してきた。
最初は正直うっとうしかった。だが、外見や雰囲気はまったく異なるはずの山岸愛子が、たまに山岸透子さんのような、どこまでも透き通った瞳をすることに気がついてしまってから――俺は、どんどん愛子に惹かれていった。
最初こそ、それは山岸透子さんの影を追うような恋だった。
それは認めよう。
しかし、いま俺は愛子のことを、愛子だから愛している。
透子さんと似ているから、ではない。
愛子にしかない、活発なところ、勝ち気なところ、それでいてたまに脆いところ。すべて透子さんにはないものだった。
俺が愛子に告白するまで多少の時間が必要だったが、大学生活の終わりを目前にしたころ、俺はついに愛子に告白できた。
愛子は慌てていてめちゃめちゃ可愛かったが、不安そうに言ったのだった。
『でも……あたし……お姉ちゃんみたいに、美人でもないし、おしとやかでもないよ?』
俺は、正直に伝えた。
たしかに俺の初恋は、山岸透子さんだった。
でも、だから愛子のことが好きなのではない。
俺は――山岸愛子という人間が、好きなのだと。
愛子は、わかってくれた。
そして四年の交際を経て。
俺たちは今日、結婚式を挙げることになったのだ。
透子さんとの話を、俺と愛子は深くしたことがない。
愛子はもちろん悲しんでいるのだろうが……俺は、それを見たことがない。
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